一般参賀でおことばを述べる天皇陛下と皇后さま(2020年1月)
一般参賀でおことばを述べる天皇陛下と皇后さま(2020年1月)

 安倍晋三元首相が銃撃で殺害された事件を受けて、警察の警備・警護の「穴」に注目が集まっている。この件を受けて宮内庁の西村泰彦長官は14日の会見で、「国民との親和を妨げない形で、いかにご身辺のご安全を確保するかは、警察の永遠といってもいい課題」と悩ましい胸の内を吐露した。国民とのふれ合いと安全の確保の両立は、政治も皇室も長年の課題である。

【写真】発煙筒が投げられた瞬間、天皇陛下をかばおうと手を出す皇后さま(1992年当時)

  安倍元首相の後方の警護を担当した警察官が、「道路を走る自転車などに気を取られ、容疑者に気づかなかった」と説明していることから、警備能力そのものの問題も大きい。

 一方で、日本で警備対象となる要人の警護が苦労の連続であるのも事実だ。警備対象者の理想と、警備・警護側の思惑がかみ合わないからだ。

 政治ジャーナリストの角谷浩一さんは、政治家はのぼり旗と一緒に商店街を練り歩く「モモタロウ」やミカン箱に乗っての演説など、庶民性をアピールしてできるだけ人との距離を縮めてきた、と話す。

「しかし、それなりの地位にいる政治家の場合、警備をする警察は何かあったときに守れないので、人と距離が近いのを嫌がります」

 危険で守れないから有権者の中に入るのはやめてほしいと警察側が選挙事務所に説明したとたん、「落選させる気か」とスタッフが警察側にくってかかる――。角谷さんはそんな光景を何度も目にしている。

令和では悠仁さまが標的に

 警察の警備・警護担当者と要人側のせめぎ合いは、長年の課題だった。

 むろん皇室もそうだ。

 反皇室闘争によるゲリラ事件が多発した昭和から平成の時代、皇室は、重要な警備・警護対象になっていた。昭和天皇の発病から大喪の礼まで、新左翼過激派の反皇室ゲリラは22件に及んだ。

1992年山形で開かれた国体。発煙筒が投げられた瞬間天皇陛下をかばおうと手を出す皇后さま(当時)
1992年山形で開かれた国体。発煙筒が投げられた瞬間天皇陛下をかばおうと手を出す皇后さま(当時)

 平成に入ってからも反皇室による事件は、しばらく続いた。さらに、1992年に山形で開かれた国体では、開会式で天皇陛下が「お言葉」を述べている最中に、ロイヤルボックスに向けて発煙筒が投げられる事件が起きた。このとき、美智子さまはとっさに天皇陛下の胸の前に手を出して、陛下をかばう姿勢を見せた。

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