習志野邸のキッチンで。基本的な調味料は常備され、個人で買ったり作ったりしたものは名前を書いて冷蔵庫へ。浴室や洗濯機を使う順番は相談して決める
習志野邸のキッチンで。基本的な調味料は常備され、個人で買ったり作ったりしたものは名前を書いて冷蔵庫へ。浴室や洗濯機を使う順番は相談して決める

 確かに、観光地でもない普通の住宅街を訪れることは、知り合いや親戚でもいなければ、なかなかない。望めばそこに定額で住めるというのは、得難い体験となるのは間違いない。実際、ADDressを使って訪れた街が気に入り、移住を決めた人もいるという。そう考えれば、地方移住を考えている人にとっても、定額住み放題サービスで短期間暮らすことは最初の一歩になり、便利なシステムといえそうだ。

 久米さんには、実際の多拠点生活についても詳細に聞いた。

 民家がベースの家の場合、屋内には個室やドミトリーのほか、キッチン、リビング、お風呂、トイレ、洗面所などのパブリックスペースがあり、誰がどんな順番で使うかは話し合い、譲り合って決める。食事は、基本は個人個人で摂るが、家守の計らいで、全員で料理をしたり、外食したりすることもあるという。

「ルールはあまりないので、基本は個人の判断ですね。先日も、私がごはんを作っていたら、男性の会員さんがキッチンに来て。『一緒に食べますか』って聞いたら『いいんですか?』と喜んでくれたので、彼の分も作ってあげました。そのお礼に旅行のお土産をくれたりして。そういうコミュニケーションも新鮮ですよね。本当に気楽に、その場のノリで決められます。冷蔵庫に自分が買ってきたものを入れるときは、名前を書きます。ときどき、間違って人の食料を食べてしまう人もいるので(笑)。自分のおすすめしたいボードゲームを持ってきて、みんなでやることも。テレビがない家がほとんどですが、ホームシアターを楽しむこともあります」

 空き家を利用するため、地域の活性化にもつながるADDressという仕組み。ただ単に移動して住むだけでは、そこまで魅力を感じることはなかったかも、と久米さんは言う。数年にわたりこの生活を続けられた理由のひとつには、各家の家守の存在が大きく、それぞれの生き方、仕事の仕方などを見聞きするにつけ、教えられることが多かったという。

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利害関係のないフラットな人間関係