滝沢カレン公式Instagram/KAREN TAKIZAWA (@takizawakarenofficial) より
滝沢カレン公式Instagram/KAREN TAKIZAWA (@takizawakarenofficial) より

 滝沢はいつも真面目で誠実だ。その証拠に、彼女はあまり愛想笑いをしない。自分が話したことで共演者にツッコミを入れられたり笑われたりすると、それにつられて照れたような笑みを浮かべたりすることはあるが、話す前や話している途中に自分から不安そうな様子を見せることはない。

 彼女自身はあくまでも、自分のボキャブラリーの中で、言いたいことを誠実に伝えようとしている。ただ、言葉の使い方や組み合わせ方があまりにも独特であるために、違和感を与えてしまうことがあるだけだ。

 たとえば、滝沢は鶏ガラスープをすくっている映像を見て「入浴剤を入れたようなお湯」と表現したことがある。彼女はそれが何のスープであるかわからなかったため、自分なりに見た目の印象をそのまま表現しようとしたのだ。

 もちろん、鶏ガラスープを「入浴剤」と表現するのは、違和感を覚える人も多いかもしれない。だが、本人はきちんと伝えたいという一心でその言葉をひねり出している。

 この誠実さこそが、滝沢のヘンテコ日本語の生命線となる部分だ。彼女が自分の話すことを一種の「ギャグ」や「ネタ」のように考えていたとしたら、こういう態度は取れないし、ここまで人気が続くこともなかっただろう。滝沢が必死で伝えようとしているのが見えるからこそ、視聴者は微笑ましさを感じつつ、彼女を支持したくなるのだ。

「IPPON女子グランプリ」で優勝したのも決してまぐれではない。彼女はもともと大喜利が好きで、プロの芸人に対しても尊敬の念を持っていた。そして、「滝沢カレンの秘密基地」という自身のYouTubeチャンネルの中で、定期的に大喜利に挑む様子を発信して、密かに腕を磨いていた。「IPPON女子グランプリ」でも、心から楽しそうに大喜利に挑む姿が印象的だった。

 滝沢はいわゆる「おバカキャラ」ではない。ひょっとすると学校で学ぶような知識は不足しているところがあるのかもしれないが、彼女には彼女なりの思考力があり、思ったことをきちんと伝えようとする知的な誠実さがある。ヘンテコ日本語の奥に隠された真面目さと素直さこそが、滝沢の本当の人気の秘密なのだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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