やせて寝たきりになった姿や、人の手で入浴させてもらっている姿、おむつ交換をしてもらっている姿。認知症を発症したら、徘徊や暴言、弄便(ろうべん、便に触ったりもてあそんだりする行為)などの問題行動を起こしているかもしれません。具体的にこれらの介護をしてくれるのは、子どもたちでしょうか。その妻でしょうか。それとも、まったく知らない、介護職という他人でしょうか。

「誰になら、介護を頼めるか、誰とならお互い、気持ちよく介護生活を送れるか。『誰に介護してほしいか』を決めることは、介護の場での新たな人間関係を選ぶということでもあります。在宅なら、介護の中心となる家族との関係を新しくつくり直さなければなりません。一方ホームに入居するなら、まったく知らない人と、一から好ましい人間関係を築く必要があります。いずれも決意と労力を要する大きなチャレンジになると思います」(高口氏)

■在宅介護には家族との新しい関係が必要

 在宅では、これまで培った人の輪のなかで生活を送ることになります。ケアマネジャーやヘルパー、訪問看護のスタッフなどが新しく加わりますが、家族や近所の知人・友人など、中心となる顔ぶれはそれほど変わりません。しかし自身は、子どもたちから見ていままでのような自立した頼りになる父親/母親ではなく、子どもたちや家族に守られる弱い存在に変わってしまっています。それまでの関係性のままでは、息子や娘、その妻に入浴や下の世話をしてもらうことは難しいでしょう。

 また、在宅の場合、介護する家族の負担も考えなければなりません。介護のために、誰かが離職したり、転居したり、家族同士でいさかいが起きたり、誰かが体調を崩すかもしれません。動けない自分の周りで、疲れ切った家族が無理に明るく動き回る姿を見なければなりません。1年2年と経つあいだに、さまざまなことが積み重なって、介護を必要とする自分が憎まれる存在になるかもしれません。

次のページ
家族の在り方そのものが変わる