新基地工事に抗議する男性がダンプに立ちふさがる(撮影/阿部岳)
新基地工事に抗議する男性がダンプに立ちふさがる(撮影/阿部岳)

 原発と基地――「国益」の名の下に犠牲を強いられる「苦渋の地」で今、何が起きているのか。政府や行政といった、権力を監視する役割を担うメディアは、その機能を果たせているのか。福島と沖縄を持ち場とする2人の新聞記者が、取材現場での出来事を綴った『フェンスとバリケード』。著者で沖縄タイムスの阿部岳記者が、共同通信・石井暁記者との連帯でつかんだ「自衛隊辺野古常駐計画」、そのスクープの裏側を一部抜粋してお届けします。

■でかいネタ

 2021年1月25日、全国の新聞に「辺野古 陸自も常駐」の見出しが躍った。沖縄2紙を含め、12紙がこの記事を1面トップに据えた。共同通信編集委員の石井暁(ぎょう)がメールで送ってくれた各社の紙面を見て、感慨を覚えた。やっとここまで来た。石井との異例の合同取材が、実を結んだ。

 さかのぼること2年余り――。2018年の暮れ、私は一人興奮していた。「これはでかい」。20年余の記者人生で一番でかい。

 辺野古新基地に陸上自衛隊が来る。ある関係者が長い対話の途中で、さらりと言った。根拠も併せて示した。確かな話だ。

 新基地建設は1996年以来、日米安保体制最大の懸案であり、沖縄にとっては呪縛であり続けた。日米両政府は、市街地のど真ん中にあって危険な普天間飛行場を返還し、米海兵隊が使う代わりの施設を造るのだと説明してきた。移転先に選ばれたのが名護市辺野古だ。

 外国軍が他国に駐留するのは例外的な状態で、戦略環境が変われば海兵隊が撤退することもあり得る。だから海上に基地を浮かべる撤去可能な工法や、15年の使用期限が検討されてきた。これらの案が消えた今も、海兵隊自身が撤退を選択して基地負担が減ることに期待をつなぐ向きは多い。

「海兵隊専用」という両政府の説明に反して陸自が常駐するなら、問題は根底から変わる。自国部隊である陸自に「撤退先」はない。計画を暴くことは、新基地が完成すれば半永久的に返還されない実態を広く知らせることになるだろう。

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しかしすぐ現実に直面することに…