営団地下鉄時代から続いた“伝統”は徐々に消えつつある
営団地下鉄時代から続いた“伝統”は徐々に消えつつある

 一方、首都圏では地下鉄を中心に「電車がきます」という、簡素な行灯表示器が普及した。しかし、LCDの行先案内表示器で、まとめて表示できることから、近い将来は“絶滅”するものと考えられる。

■流行しなかったプラズマディスプレイ

 先述の御堂筋線は、1987年4月18日のあびこ―なかもず間延伸が近づくと、1986年12月11日より行灯式からプラズマディスプレイに置き換わった。上段は「行先」、下段は「次の列車」がひとつにまとまり、効率化、合理化、省スペース化を図った。上段は日本語と英語の併記にしたほか、下段は「⇒前駅⇒当駅」に見直し、列車の所在位置を点滅表示した(当駅を除く)。

 しかし、プラズマディスプレイは普及せず、先述のLEDにとってかわられてしまう。ただ、“表示の仕方”については、のちに営団地下鉄(現・東京メトロ)などが追随した。

少なくとも首都圏では、幕の行先案内表示器を見かけなくなった
少なくとも首都圏では、幕の行先案内表示器を見かけなくなった

■幕式

 最後は幕式を紹介したい。鉄道車両でも広く普及し、視認性のよさはLEDより格段に上である。

 幕式の行先案内表示器は、主に列車名及び列車種別、行先、発車時刻が表示された。わかりやすく表示できるメリットがあるものの、次の列車によっては幕が延々まわってしまい、表示が遅くなるというデメリットもある。趣味的に「幕回し」は楽しいが、目的地へ向かう人々にとっては、どの列車に乗ればいいのか迷う人もいたのではないだろうか。

 1990年代に入ると、幕式の行先案内表示器はLEDへの置き換えが進められたが、首都圏では東武鉄道の北越谷駅が2001年まで、せんげん台駅が2002年頃まで使用していた。特に後者は列車の案内放送も駅員の肉声で、同社の有人駅では案内放送音声の自動化がもっとも遅かった駅の一つではないだろうか。

 面白いのは本電気鉄道5000形青ガエルで、運賃表は幕を使用していた。運転士が次駅案内の自動放送を作動すると、運賃表もまわる。乗務員室付近の天井に設置することで、乗務員室側、客室側とも運賃が確認できる。

 時代の変遷によって形を変えてきた行先案内表示器。将来、LCDを超える新たな行先案内表示器が出現するかもしれない。(文・岸田法眼)

〇岸田法眼(きしだ・ほうがん)/『Yahoo! セカンドライフ』(ヤフー刊)の選抜サポーターに抜擢され、2007年にライターデビュー。以降、フリーのレイルウェイ・ライターとして、『鉄道まるわかり』シリーズ(天夢人刊)、『論座』(朝日新聞社刊)、『bizSPA! フレッシュ』(扶桑社刊)などに執筆。著書に『波瀾万丈の車両』『東武鉄道大追跡』(アルファベータブックス刊)がある。また、好角家でもある。引き続き旅や鉄道などを中心に著作を続ける。