ロープの中にはワイヤーが入っていて、あんなに固いなんて思わなかったよ! 転向してからはしばらくロープワークばかりやらされたけど、周りはみんな簡単にやっているのに俺だけできなくて情けないし、下手なもんだからロープに当たるわき腹が内出血して腫れあがって、しばらくの間は寝るのにも苦労したよ。
そこへ来て、初めて食らったボディースラムで息ができなくなるほど苦しい思いをして「これは早まったことをしてしまった」と、プロレスに転向したことを後悔したもんだ。ロープワークとボディスラムの受け身なんてプロレスのイロハのイだよ。それがまったくできないんだから、大きな勘違いをしていたね。
さらに、リングに上がるようになっても勘違いがあった。レスラーはみんなそうだと思うけど、リングに上がると一対一で戦って、スポットライトが自分だけに当たるから、スターになった気分になるんだよね。俺もジャイアント馬場さん、ジャンボ鶴田と並んでいいポジションに押し上げられて、一丁前になったと思ったよ。でも、いざ試合をしてみると「天龍は下手だな」という客の声も聞こえたりして、リングに上がるのが怖くなってしまった。
外国人レスラーも同じようで、日本に来ると地元ではあり得ないくらい多くの拍手で迎えられるから、自分がスターだと思ってしまうようだ。後楽園ホールでお披露目したときは歓迎されたけど、シリーズを転戦するにつれてボロが出てきて、また後楽園ホールに戻ってきたときにはすっかり拍手も少なくなっていることもよくあったよ(笑)。
そもそも、日本に来る外国人レスラーは“ロシアの怪豪”イワン・コロフとか、“流血怪人”アレックス・スミルノフとか、“狂犬”マッドドッグ・バションとか、おどろおどろしいニックネームがつけられるだろう。どんな怪物なんだろうって思って期待していると、意外とちょこまかと動いたりとか、パワーだけで技のバリエーションが無かったりとか、ガッカリされることも多かったんだね。特に力を誇示するだけのレスラーは、技をたくさん見たい日本のファンからは飽きられちゃうんだけど、まあこれも仰々しいニックネームでファンが勘違いしちゃうっていうのも多かっただろうね(笑)。