診察時は36.0度と解熱していましたが、歩行時の息切れと左の胸の辺りの痛みを訴えており、診察中も座るのもやっとなほど辛そうな印象でしたので、当時はまだ在庫があった新型コロナウイルス抗原検査と胸部レントゲン検査を実施。抗原検査にて陽性を認めました。胸部レントゲンにて肺炎像を認めたので、全身状態が不良であったことと、65歳以上の高齢者であったことから、重症化のリスクが高いと判断し、「ラブゲリオ」について説明し、同意を得た上でBさんに処方することにしました。

 付き添いで来ていたBさんの息子さんは、入院しての加療を強く希望されていました。私も、Bさんは入院加療が必要だと考えましたが、新型コロナウイルス感染症に関しては、医師が判断して入院かどうかを決めることができません。提出しなければならない発生届に、「重症化のリスクとなる疾患があるか無いか」「重症度」「入院の必要性の有無」を記入して提出するしかありません。クリニックに確保してあった「ラブゲリオ」をお渡しし、保健所からの連絡を待っていただくしかないことをお伝えし、帰宅していただきました。空白のところに、「肺炎像」ありと追記して届出を提出し、入院を検討していただけるよう願うしかありませんでした。

 翌日の午後、保健所からクリニックに「Bさんのご家族の方と連絡がつかない。ご本人様に症状をお話ししていますか?」という問い合わせが来ました。日中連絡がなるべくつく携帯番号を記入していただくようお願いしたものの、やはりお仕事などで電話に出られない状況だったのではないかと察します。保健所の方も、Bさんの入院を検討して電話をしてくださったのかなと思ったのですが、詳細は不明です。「ラブゲリオ」を処方してはいますが、こうしたやり取りで時間が過ぎていく間に、Bさんの症状がさらに悪化しているケースも十分考えられます。

 医療とは、本来、患者さんの各々の状況に応じて、臨機応変に対応することが必要であり、重要だと思います。隔離することに躍起になっていて、感染が発覚した後の対応は二の次に思えて仕方のない今の政策では、患者さん目線の医療が行われているとは到底思えません。外来で診療するたびに、「隔離されると仕事を失って困るので、コロナかもしれないのはわかっていますが、検査することはできません。」という声を聞いています。今の隔離制度では、そういう意見もごもっともだと聞くたびに思ってしまいます。

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日本の水際対策や早期承認制度にも疑問