<俺の唯一の心残りはお前だったなあ>(妓夫太郎/11巻・第97話「何度生まれ変わっても<後編>」)

 妓夫太郎はそんな後悔を心の中でつぶやいた。ならば妹を不幸せにしたのは妓夫太郎だったのか。そんなはずはない。答えは「妹」の言葉の中にある。

<絶対離れないから ずっと一緒にいるんだから!! 何回生まれ変わっても アタシはお兄ちゃんの妹になる絶対に!!>(梅/11巻・第97話「何度生まれ変わっても<後編>」)

 おしゃべりな妓夫太郎の数々の言葉には、彼の願いが隠されていた。美しい顔、恵まれた体格、優しい妻、特別な才能、他者を救うこと、人に感謝されること。そして、妹の幸せな未来。

 妓夫太郎は、地獄から妹だけはなんとか救おうとしたが、妹の幸せは「兄と一緒にいる」ことだった。それに気づいた時、妓夫太郎の心は少しだけでも救われただろうか。妓夫太郎は立派な兄だった。堕姫にとって、梅にとって、唯一無二の最高の兄だった。

◎植朗子(うえ・あきこ)
1977年生まれ。現在、神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。AERAdot.の連載をまとめた「鬼滅夜話」(扶桑社)が好評発売中。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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