「イラストロジックの絵もCT画像も、どちらも一度、数字に変換され計算して絵や画像にしているので、原理は同じではないか。自分が考えた公式で画像診断がいまより速く正確にできれば、患者さんの負担を減らせるのでは、と本気で考えました」

■画像レベルは高いが放射線科医は少ない

 小学5年から始まった研究は、いまの仕事にまっすぐにつながっている。越野医師は現在、AI(人工知能)による画像診断に関する研究に取り組んでいる。たとえばMRI(磁気共鳴断層撮影)で撮影した脳の動脈に、動脈瘤などの異変がないかをAIが調べるシステムの開発だ。

「現在は医師が自分の目で画像を見て『ここに動脈瘤がある』などの診断をしていますが、放射線科の専門医がいない病院もあります。非専門の医師や経験の浅い医師でも、AIと一緒に診断することで、画像診断の精度が上がることが証明されました」

 日本のCTやMRIの撮影技術は、日進月歩で進化している。一方で、画像を読み取って診断する放射線科医の数は少ない。画像には病変が写っているのに、それを見落として患者が亡くなるという医療事故もあった。

 小学生時代に将棋にはまり、「天才将棋少女」と呼ばれて加藤一二三さんや羽生善治さんとも対戦経験のある越野医師は、AIとのかかわり方についてこう語る。

「AIの画像診断のレベルが上がれば、競い合うように放射線科医のレベルも上がるはずです。棋士の藤井聡太さんは将棋AIと戦うことで強くなりましたよね。同じように、AIの画像を読む力が高くなれば、医師にとっても勉強の機会が増えますから」

■高校生のときから夢はノーベル賞

 越野医師は現在、放射線科医として週3~4日病院で臨床の仕事につき、研究には週2日を充てている。研究医の多くは、臨床と研究を同時並行で進めている。

「研究室にいるだけでは、救うべき患者さんが見えなくなります。一方で、臨床だけでは目の前の患者さんしか救えない。研究して論文を公表すれば、世界中の人やこれから生まれる人を救えるかもしれません。臨床も研究も、どちらも欠かせません」

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高校時代からの夢は…