※写真はイメージです(写真/Getty Images)
※写真はイメージです(写真/Getty Images)

 前歯のクラウンは特に審美性が重視されるので、患者さんに、「これでいいかどうか」をよく確認してもらいながら、仮歯の段階で、歯の大きさや長さを調整します。

 この作業が終わったら、この調整した仮歯を元に、完成品を作るわけです。

 つまり、仮歯は患者さんの口にぴたりと合う完成品(クラウン)を作るために、欠かせないものなのです。

 仮歯で生活をするということは、その調整をせずに、歯を使うということです。

 長く使っていれば、かみにくい、しゃべりにくい、などさまざまな不具合が出てくるかもしれません。

 また、クラウンは金属やセラミックスなどで作られているのに対し、仮歯はプラスチックのレジンで作られているので、硬いものをかむと割れやすく、仮着用セメントという接着剤で軽く止めているだけなので、ガムなどの粘着性のものがくっつけば外れます。

 もっと深刻なのは、仮歯から仮着用セメントが溶け出してしまうことです(あくまでも仮に止めるためのものなので、容易に溶けやすいのです)。

 セメントが溶け出すと仮歯と歯にすき間ができて、そこからむし歯菌や歯周病菌などの細菌がどんどん、中に入っていってしまいます。

 そこには歯ブラシや歯間ブラシは一切、届きません。その結果、どうなってしまうでしょうか。当院の患者さんのケースを紹介しましょう。

 ある女性患者さんは、むし歯のため、上の前歯を6本削り、セラミックスで作ったクラウンをかぶせることになりました。進行したむし歯も何本かあったので、神経の処置を、時間をかけておこないました。そしてようやく仮歯をつけた後、突然、患者さんが来なくなってしまいました。

「仕事が忙しく、なかなか予約日が決まらない」

 と言うことでした。

 そう言われてしまえば、無理やり、「来い」とは言えません。

 頑張って治療をおこない、ようやく仮歯が入ったことで、患者さんもほっとされたのかもしれません。ところが、やはり、心配していたことが起こりました。半年後に来院されたとき、仮歯を外すと、わずかに残っていた土台となる歯が新たなむし歯におかされ、茶色くなったり、溶けたりして、グズグズになっていました。そこにはプラークがびっしりと付着していたのです。

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