マツケンサンバ熱唱する松平健
マツケンサンバ熱唱する松平健

 2021年12月31日放送の『NHK紅白歌合戦』は、2年ぶりに有観客で開催された。見どころ盛りだくさんの中で特に話題になったのは、前半を締めくくる企画コーナーで松平健が「マツケンサンバII」を歌ったことだ。

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「マツケンサンバII」は2004年にCDとしてリリースされ、大ヒットを記録した。松平が派手な金ピカの殿様姿で登場して、同じくきらびやかな和装に身を包んだ大勢のダンサーを従えて、華麗に歌い踊る。宝塚歌劇のフィナーレのような底抜けに明るく派手なパフォーマンスが評判を呼び、老若男女に愛される楽曲となった。

 昨年、そんなマツケンサンバが再び人々の注目を集めた。そして、年末には『紅白』出演を果たすまでになった。人気再燃の直接のきっかけは、東京五輪の開会式が行われるにあたって、SNSなどを通じて人々の間で「マツケンサンバ待望論」が盛り上がったことだった。

 東京五輪は、新国立競技場の建設計画が一度は白紙になったことから始まり、組織委会長の辞任、開会式のディレクターや担当ミュージシャンの辞任など、開催に至るまで数え切れないほどのトラブルに見舞われていた。

 新型コロナの影響で2020年の開催が延期になり、その後も感染拡大が続いて「中止すべきだ」という世論の声も高まる中で、2021年に何とか開催にこぎつけた。五輪にまつわる数々の不祥事は人災であり、コロナは天災だ。延々と続く人災と天災の挟み撃ちに当時の日本人はすっかり疲弊しきっていた。

 そんな不祥事続きの東京五輪と長引くコロナ禍にうんざりした人々の間で、どこからともなく「開会式ではマツケンサンバが見たい」という声がわき起こり、それがじわじわと拡散していった。マツケンサンバは、分厚い黒い雲のように日本を覆っていた陰鬱な空気を一掃する魔法のような役割を期待されていたのだ。

『紅白』の演出もこのような文脈を意識したものになっていた。曲紹介のVTRでは、劇団ひとりが司令室のような部屋で会場の照明を操って遊んでいた。そんな彼がミラーボール状のスイッチを押すと、マツケンサンバが始まった。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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まるで「あるはずだったもう1つの開会式」のよう