若林健史歯科医師
若林健史歯科医師

 消化器がんの一つである食道がん。他のがんに比べ早期発見が難しく、進行が早いと言われています。この食道がんに歯周病菌が関係していることがわかってきました。歯科医師で歯周病専門医の若林健史歯科医師に詳しい内容と見解をうかがいました。

*  *  *

 国立がん研究センターがん対策情報センターによると、最新のがん統計(がん罹患数予測2021年)で食道がんは男性の場合、前立腺、胃、大腸、肺、肝臓、膵臓、に次いで7番目に多くなっています。

 日本食道学会の全国調査(2008年)で性別では男女比が約6:1となっており、男性に多いがんということがわかります。好発年齢は60代、70代とありますね。

 また、食道がんの危険因子として、お酒とたばこがよく知られています。

 私はたばこは若い頃にやめたものの、お酒はときどき飲みます。また、好発年齢にも該当しますので、決してひとごとではありません。そんな中、食道がんと歯周病菌との関連が発表され、とても興味深く読みました。

■発症のしやすさが約6倍に

 この研究は東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科臨床腫瘍学分野の三宅智教授、歯周病学分野の池田裕一助教らの研究グループが実施、2020年11月に国際医学誌「Cancer」(オンライン版)に発表したものです。

 研究では同大の附属病院・消化器外科に入院した食道がんの患者さん61人と、がんでない患者さん62人の口の中の検査をおこないました。

 その結果、食道がんの患者さんでは歯周ポケットの深さ(平均)が2.7ミリ、がんでない患者さんでは2.1ミリでした。歯ぐきからの平均出血率は食道がんの患者さんが17%であるのに対し、がんでない患者さんは6%でした。これらの結果から、食道がん患者さんでは歯周病の状態が有意に悪いという結果でした。

 さらに研究では唾液と歯ぐきの下のプラーク(歯垢)を採取し、そこから見つかった7種類の細菌を特殊な機器で計測しました。その結果、食道がんの患者さんでは歯周病菌が有意に高く検出されました。中でもアグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス菌(A.a菌)が16人で見つかったのに対し、がんでない患者さんではわずか1人でした。これらの結果から歯周病菌(A.a菌)は食道がんの危険因子となると発表したのです(発症のしやすさは5.77倍)。

著者プロフィールを見る
若林健史

若林健史

若林健史(わかばやし・けんじ)。歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演。AERAdot.の連載をまとめた著書『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか?聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中。

若林健史の記事一覧はこちら
次のページ
悪性度が特に高いA.a菌、対処法とは?