では、どんな救命救急チームが理想なのか。関根医師は、自身が学生時代に夢中になったラグビーに例えて説明してくれた。

「ラグビーは15人すべてにポジションがあり、一人ひとりの役割が違います。体が大きくてパワーがある人が求められるポジションもあれば、小さくてもすばしっこい人が必要なポジションもある。全員が自分の仕事を責任もってきっちりこなしたとき、そのチームは最強になります。私自身、そんな気持ちで救急チームを束ねています」

■医師を目指そうと思う人は医師の資質が十分にある

 関根医師が救急医を目指したのは、大学5年生のときだった。もともとは医学の研究者なるつもりだったが、父が急死したことをきっかけに救急医療の世界に飛び込んだ。

「当時は『救急医療が適切なら、父があっけなく亡くなることはなかったのでは』と考えたんです。でも救急医になってみて、父が当時の最先端の救命救急センターで最適な医療を受けて亡くなったのだと納得できました。私にとっての救いでもあります」

 救命救急センターは、東京都に現在26カ所ある。東京都の人口1400万の命を、26のセンターが休むことなく引き受ける。

「確かに大変です。でも1人の人間が24時間働くわけではありません。休むこともチームのため。仲間が必死に働いているときに自分は休み、仲間を休ませるために再び働く。そのメリハリがあるから救うのが難しい命を救うことができるのです」

 医師を目指す学生にアドバイスをお願いしたところ、少し考えてこう言った。

「医師を目指そうと思う人は、人の役に立ちたい、命を救いたいという思いが必ずあると思うんです。それだけで十分、医師の資質があります」

関根和彦 医師
東京都済生会中央病院救命救急センター長・院長補佐。1995年慶応義塾大学医学部卒業。同大学医学部助手、東北大学大学院・医学系研究科助手を経て、米国留学。帰国後慶応義塾大学医学部助教などを経て2011年から現病院に着任。16年から現職。学生時代はラグビー部に所属。

(文/神 素子)

※週刊朝日ムック「医学部に入る2022」より