「突っ慳貪(つっけんどん)な印象を持たれ、好感度ダウンとなること必至だろう。だが、好感度を上げたいという欲求は僕には皆無なので、まったく影響を受けずに書いた」

『すべてがFになる』『スカイ・クロラ』数々のベストセラーを生みだした作家・森博嗣氏の新刊『諦めの価値』(朝日新書)からの言葉だ。現在森氏は、労働時間は毎日1時間で、幼い頃からの夢だった「庭園鉄道」(庭に敷設する鉄道模型)を整備する毎日を送っている。森氏が夢を叶えられた理由は、仕事や人間関係など多くを「諦めた」からだという。森氏にとって「諦め」とは何なのか? 森氏に寄せられた人生相談を本書から一部抜粋して紹介する。

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■あの人と結婚していたら

【相談1】
 結婚して15年以上になり、子供も2人いるのに、何故この人と結婚したのか、自分と合わないのではないか、別な女性と結婚した方が幸せだったのではないか、このまま暮らしていると身体に良くないのでは、との思いが毎日頭を過(よぎ)ります。

 当時、ほかに結婚までいくぐらい長くつき合った人がいたわけではないので、現実問題として「あの人と結婚してたらな」という人物は、特には存在しないのですが、「早まったな」とは思うのです。自分は自己中、「べき」思考の塊、気難しいので、合う人間などいないかな、とも思うのですが、子供が成人するまで忍耐でしょうか?

【森博嗣さんの答え】
 結婚というものに対して、大いなる期待を抱かれているように見受けられます。

 あるいは、他者に依存している、ともいえるかもしれません。非常に限られたものにしか「幸せ」を感じられない、と思い込んでいるのは、どうしてでしょうか?

 もっといろいろな幸せが、あるはずですし、それは、あなた個人の中から生まれてくるもののはずです。

 家族は、人生のほんの一部でしかありません。ご自身と向き合い、自分が何をしたいのか、をもう少しお考えになってはいかがでしょうか?

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もう自分の人生に「恋愛」はないのでしょうか?