人は年齢を重ねるにつれ、若い世代に対して、ついつい「過去」を語ってしまいがちになる。生きている年数に比例して経験は増すからただでさえ語れるエピソード量は増えていくし、せめて自慢話はしないよう留意していても、良かれと思って、「自分の失敗談を、若い世代の参考にしてほしい」と披露してしまう。だがそれも、時代が違えば参考にならないことも多く、失敗談に「大変だった自慢」の側面があることは否めない。


 
 そして昔語りが出てしまう背景に、自分という存在を見直してほしい、もっと敬意を示してほしい、という欲求がないとは言えないだろう。
 
 だが仕事関係において、相手の尊敬や信頼を勝ち取るために、過去の実績や功績を振りかざすことは、表面的で、かつ一時的な効果しか生み出さない。なぜなら、あなたがかつてどのような成果を挙げてきたか、あなたが以前いかに激務を乗り越えてきたかは、いま仕事を共にする、目の前にいる人々には関係がなく、実力のメッキは現在のパフォーマンス次第ですぐにはがれてしまうからだ。

『LIFE!』の総合演出・西川毅氏が、内村が過去の実績に関心がなく自分から語ろうとしない理由を推察してくれた。

「最近思うのは、これだけいろんな良いコントを撮ってきても、過去が本当に意味をなさないんですよね。今この瞬間におもしろいことをできないと、つまらないと判断される仕事なので。内村さんもそういう過去の栄光が今の自分に対して何の働きもなさないっていうことを、本当の意味で理解されているんではないでしょうか」

 お笑いの世界は、他の仕事よりもとくに「過去」が意味を持たない世界なのだとは思う。一方、一般企業では、過去の実績がものを言うこともある。しかし、それは本質的な意味をなさないことが多いのではないだろうか。
 
 おそらく、それはいかなる世界、業界でも同じ。過去にどれほど功績があろうと、“現時点での能力”がリーダーにふさわしいものと認められなければ、本当の意味での尊敬の対象にはなりえない。
 

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「肩書がない自分」を磨いている