国立競技場の前にある五輪マークのモニュメント(c)朝日新聞社
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 国際オリンピック委員会(IOC)のジョン・コーツ調整委員長が21日、新型コロナウイルス対応の特別措置法に基づく緊急事態宣言下でも東京五輪を実施すると発言した。

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 日本では現在、東京など9都道府県で緊急事態宣言が発令され、23日からは沖縄県にも適用される。政府は沖縄県を除き当初は11日までだった宣言の期限を5月末までに延長。感染収束のメドは依然として立っていないことから、6月以降も再延長される可能性が十分に考えられる。

 コーツ氏は大会組織委員会とのオンライン会合後に記者会見し、「緊急事態宣言下でも、5競技のテストイベントが実施され成功してきた」と力説。「選手、日本の人たちの安全を守るために準備している計画はすべて最悪の事態を想定している」とした上で、「緊急事態宣言下で五輪を開催できるか」という質問に、「絶対にできる」と断言した。

 ジョン委員長の発言に、日本国民から「実情を知らなすぎる」と反発の声が多い。元大阪市長で弁護士の橋下徹氏は23日にフジテレビの報道番組「日曜報道 THE PRIME」にリモート出演した際、ジョン委員長の発言について、「まったく納得できませんね」と反発。「五輪だけやって民間事業の方は全部営業止められると。これは納得できませんし、医療状況のひっぱく性も度外視した形でやるっていうのは、僕も納得できません」と訴えている。そして、「重要なのは国民感情ですよ。国家、国民挙げての祝典なので、みんなが気分良く五輪をやらないと成り立たないのに、コーツさんもバッハさんも何なんですかね、この人は。日本人の国民性を全く分かってないと思います」と語気を強めた。

 米国でスポーツ現場を取材する特派員は「日本人はナメられています。もし、米国や欧州で五輪が開催されるならIOCの幹部はこんな無責任は発言をしません」と断言する。その理由はなぜだろうか。「日本人は真面目で不満を抱えていても黙々と目標を遂行する国民だと思われているからです。例えば、このコロナ禍で米国や欧州で五輪が開催されるようだったら、市民が怒って大規模なデモを全国各地で起こすことが自然です。大きな騒動になって政府が転覆してもおかしくない。日本でもデモは起きていますが大きなうねりになっていない。どこかで現政府、IOCに対して『どうせ言っても無駄だろう』とあきらめの感情があるのだと思います。IOCも日本の国民性を見透かしているから、『緊急事態宣言下でもできる』、『五輪実現のために犠牲を払わなければいけない』など信じられない発言をするのです」。

 東京五輪開催まで2カ月を切った。開催に向けて賛否両論の意見はあるが、政府、IOC、JOCが国民に向けて安心、安全に開催できると具体的な根拠を示して説明する姿勢が見えているとは言い難い。出場するアスリートも大きな葛藤を抱えている。説明責任を果たさないまま月日が経過する現在の状況が続けば、国民の不信感はさらに高まるばかりだ。(梅宮昌宗)