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前立腺がん治療数全国トップ病院 新型コロナでも治療数が減らなかった理由とは?

神奈川県立がんセンター(提供写真)

神奈川県立がんセンター(提供写真)

神奈川県立がんセンター副院長で、泌尿器科部長・前立腺センター長の岸田健医師

神奈川県立がんセンター副院長で、泌尿器科部長・前立腺センター長の岸田健医師

 がんと診断される人が日本人男性で最も多い前立腺がん。ゆっくり進むケースが多いものの、新型コロナウイルス感染症の流行拡大によって治療が遅れてしまうと、命に関わるおそれがある。このような状況下に、治療数トップの病院はどのように対応しているのか。週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2021』で、2019年の前立腺がん治療数が全国1位となった神奈川県立がんセンターで副院長、泌尿器科部長・前立腺センター長を務める岸田健医師に話を聞いた。

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 前立腺がんの多くは、自治体や職場のがん検診に広くとり入れられているPSA検査で見つかっている。そのため、新型コロナによる“検診控え”で、早期発見のチャンスが失われる危険性がある。さらに、“受診控え”による治療の遅れも懸念されている。岸田医師も“検診控え”を実感している。

「前立腺がんはがん検診でPSAを測定し、基準値を上回ると精密検査に進み発見されることが多くあります。そこでがんが見つかったらまず病気の進行程度を検査し、前立腺にとどまっていれば手術、あるいは放射線治療、転移が見つかったら薬物療法、という流れです。しかしコロナの流行により、入り口であるがん検診を控えてしまうケースが多かったようです。近隣の検診施設では2020年4~6月ごろはがん検診そのものを中止していたところもあり、この時期の当院への紹介や新規患者数はかなり減りました。しかし、同年秋くらいから徐々に戻ってきています」

 一方で、すでに治療を開始していた患者の受診控えは一部にとどまった。

「病状から進行リスクが低いと判断された患者さんは受診の延期を許容しましたが、しばらく後に連絡を入れ、受診を促すようにしていました」

 さらに、感染者が急増した第3波を含めて、手術が延期されるような事態は回避できており、放射線治療にもとくに支障は出ていない。むしろ治療数自体は「コロナ前」より増えたほどだ。2019年は手術141件、放射線治療(重粒子線治療)312件だったが、20年はそれぞれ165件、365件となったのである。

 ただ、「21年1月以降は紹介患者さんが減少傾向にあり、治療数は変わりないものの、患者さんの待機時間が短くなる傾向がみられ、全体の数は減っている印象です」(岸田医師)といった影響は出ている。

 コロナ禍にあっても、前年より治療数がむしろ増えている背景は何か。岸田医師は、県による「神奈川モデル」と呼ばれる対コロナの医療提供体制が功を奏したとみている。

「神奈川モデル」では、初期の感染者は在宅療養かホテル療養、中等症は県立循環器呼吸器病センター、県立足柄上病院などの専門施設、重症例は大学病院、と医療機関の役割を分担した。神奈川県立がんセンターで感染者が見つかれば、これら3分類のどれかに振り分けて対応し、がんセンターでは「がん診療に徹する」ことになった。

 実際に、20年中、同センターは通常通りのがん診療をおこなうことができていた。21年、年明け早々からの第3波ではコロナの患者が急増し、「自力対応」を迫られたが、「入院診療の外来へのシフト」「術後の入院期間の短縮」などで乗り越え、ここでも通常のがん診療を守ってきた。

 同センターではICT(Infection Control Team)という感染対策チームが、院内の感染対策を議論して対策を練っている。新型コロナ前は1カ月に1回の開催だったが、20年2月からは毎週開催されている。院長、副院長をはじめ、院内の全部門が参加して議論を重ねている。

 患者への対策も強化し、手術中の人工呼吸による院内感染を防ぐため、患者全員に術前のPCR検査を実施している。入院患者には、チェック表を使って入院2週間前から体温や呼吸器症状などをチェックしてもらっている。

 岸田医師は今、二つのことを危惧している。一つはがん検診未受診者の増加である。

「手術や放射線治療の対象になる人は、無症状のうちにがん検診(PSA検査)で見つかった人がほとんどです。無症状の人を見つけることを怠っていると、今年はよくても来年、再来年と、進行がんで見つかる人が一気に増えてしまうのではないかと心配しています。前立腺がんの多くは月単位では進みませんが、1年、2年も経てばがんが進行してしまう恐れがあるため、数年先が心配ということです。コロナ禍にあっても、がん検診は適切に受け続けてほしいです。これは前立腺がんに限ったことではなく、がん検診が推奨されているがん(胃、大腸、肺、乳腺、子宮頸部)全てに言えることです」

 もう一つの危惧は、病院内での新型コロナへの感染を恐れて、患者が治療を先延ばしにするケースである。前立腺がんは進行がゆっくりだから、治療を先延ばしにしてもがんで命を落とすことはない……といった誤った認識も多いという。岸田医師は、治療が遅れることがないよう、次のように呼びかけている。

「前立腺がんで毎年1万2000人以上もの人が亡くなっています。適切なタイミングで治療を受けなければ当然、命に関わることになります。どの医療機関でも、ウイルスを一般の病棟に入れない、万一紛れ込んでしまっても院内で広げない対策が徹底され、院内の安全性は格段に高まっています。主治医の先生とよく相談のうえ、治療が必要なタイミングを逃さず、勇気をもって、ぜひ治療に臨んでください」

(文/近藤昭彦)


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