『M-1』や『キングオブコント』で活躍したことで、彼らは自分たちの肩書を作り、テレビの世界に入るパスポートを手に入れた。そして、そこでも着実に結果を残してきている。

 ニューヨークの芸人としての売りは「皮肉屋」であることだ。彼らの漫才やコントの多くは「こういう人間がダサい」「こういうやつはヤバい」といった素朴な感覚をベースにしている。彼らは、他人のダサさに対する嗅覚が人一倍鋭く、そういうものに対して力強く堂々とツッコミをいれていく。

 そんなニューヨークの唯一の弱点は、他人だけでなく自分たちに対しても客観的な目線がありすぎるということだった。自分たちは見た目も生い立ちも普通で特徴がない。いじられるポイントがないからテレビに呼ばれにくい。彼らは自分たちがくすぶっている理由をよく理解していた。

 キャラがないならキャラを作ればいい。趣味や特技を伸ばしてテレビに呼ばれるようにすればいい。普通の芸人ならそう考えてもおかしくないところだが、「そうやってガツガツするのはダサい」という意識もあり、なかなか実行に移せなかったのではないか。彼らは自分たちの作った偏見の檻に閉じ込められていた。

 だが、ある時期から彼らは開き直り、意欲的に活動を展開するようになった。YouTubeに本腰を入れて、そこで新しいファンを獲得した。また、屋敷は版画を始めて、それでテレビに呼ばれたり、個展を開いたりするようになった。嶋佐は突然、髪を金髪に染めたり、ピン芸人として『R-1グランプリ』に挑戦したりした。

 フットワークが軽くなったことで、メディア出演の機会も急増し、彼らが実力を発揮できるチャンスが増えた。彼らの冷静で客観的な目線は、トーク中心の番組では特に重宝されている。

 ニューヨークにはライブで鍛えたMC能力があり、番組の中心に立つ芸人の風格もある。自分たちの話をするだけでなく、他人の話を引き出すのも上手い。

 この春、彼らは「ヨシモト∞ホール」という劇場を卒業して、新たな冠番組『NEWニューヨーク』(テレビ朝日)もスタートさせる。即戦力の逸材として、ようやく彼らが陽の目を見るときが来た。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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