虎の注目ルーキーは佐藤輝明だけじゃない――阪神ドラフト8位、石井大智投手(23)の開幕1軍入りが現実味を帯びてきた。支配下選手のドラフトで最下位指名だった右腕は、5年制の国立高等専門学校出身。プロを志したのは野球部を引退後で、しかも大手企業の内定を辞退してまで夢を追った「変わり種」だ。

【写真】今年の阪神のゴールデンルーキーといえばこの選手

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 全国区の知名度もなく、キャンプ開始前には、さほど注目されていなかった石井大。複数の球団が争奪戦を展開したゴールデンルーキー佐藤輝が脚光を浴びる状況では、存在が埋もれてしまったのも無理はない。

 そんな石井大だが、2月7日の紅白戦では一回を投げ2失点を喫したものの、その後の登板は、4試合続けて無失点。マウンド度胸も良く、矢野監督が「うちの右の中継ぎ候補で一番いい」とほめちぎるほど、一気に評価を上げた。ドラフト最下位からの開幕一軍入りという、「下克上」が期待されている。

 身長175センチと、投手としては決して恵まれた体格ではないが、150キロを超す力強い直球に加え、右の上手投げの投手はめったに投げない変化球「シンカー」を巧みに操る器用さも持ち合わせている。

その経歴は、一風変わっている。

 秋田東中では軟式野球部で野手だった。一時は投手を務めたが、後に秋田商のエースとして甲子園を沸かせ、2015年のドラフト会議でロッテから3位指名された成田翔に、エースの座は奪われた。

 国立の秋田工業高等専門学校に進学し、環境都市工学を専攻。身長は150センチちょっとしかなく、野球部に入る予定ではなかったという。

 当時、野球部の監督だった白根弘也氏(同校准教授)は入部当時の石井大について、こう振り返る。

「遠投は80メートル、球速は120キロ出ていたかどうか。そもそも高専はプロを目指すような選手が来る学校ではなく、大手企業への就職を目指してみんなが勉強に励む環境で、野球部に入る生徒は少数です。その少ない1年生部員の中でも、石井は特に目立つ存在ではありませんでした」

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「野球でご飯を食べたいんです」