こうした話題性のある大規模物件は、大量の広告費をかけてムードを盛り上げて「第1期●●●戸即日完売!」と謳い、超人気物件を装うのが業界のセオリーである。

 ところが、晴海フラッグは盛り上げるには盛り上げたが、第1期600戸の販売を約3カ月も後ろ倒しした揚げ句に、「即日完売」すらできなかった。抽選倍率が70倍などの人寄せ「パンダ住戸」を作っても、なお即日完売と表示できなかったのだ。業界の常識としては「販売不振」と言う他ない。

 もくろみ通りに「即日完売」できなかった理由は、やはり価格の高さにある。

 売り主である大手10社のデベロッパーは、この土地を東京都から破格の値段で買っている。あまりにも安すぎて、17年8月に市民団体から「都民に損害を与えた」という訴訟を起こされているほどだ。裁判の結果はまだ出ていない。

 だから、仮に今の販売価格よりも2割安かったとしても、売り主10社は十分に利益を確保できたはずだ。市場も一時的にそれを期待した。

 ところが、販売が始まってみれば結構なお値段になっていた。

 それでも、このマンションの最寄り駅である大江戸線「勝どき」駅近辺のタワマン中古価格に比べれば、いくぶん安い。少なくとも、そう見えてしまう。

 しかし、それにも理由がある。晴海フラッグは駅からやたらと遠いのだ。不動産広告の表記で「駅徒歩16分」から「20分」。マンションの玄関を出て駅のホームに立つまでには、おそらくこの表示からプラス4~5分はかかるだろう。

 毎日駅まで20分以上歩かなければならないマンションなんて、「選手村跡地」というフレーズが使えなければ、中古では買い手がつかないのは目に見えている。築10年の中古になった時には市場から見放されているはずだ。勝どき駅の徒歩10分以内には多くのタワマンがあり、それらは中古となった晴海フラッグともろに競合するはずだ。駅まで20分も歩かなければならない晴海フラッグが、中古となっても人気を維持できるとは思えない。

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調停がうまくいくとは思えない