現在は立ち入り禁止となっている「晴海フラッグ」(C)朝日新聞社
現在は立ち入り禁止となっている「晴海フラッグ」(C)朝日新聞社

 1月30日、東京五輪の選手村として使った後に分譲される東京・晴海のマンション群「晴海フラッグ」で、購入者が売り主に補償を求める調停を起こすと報じられた。東京五輪の開催延期に伴い、物件の引き渡しも1年ほど遅れる予定だった。しかし、それによって増える家賃分の補償などについて、売り主側が説明と補償を拒んでいるため、購入者約20人が東京地裁に賠償を求めて民事調停を申し立てるという。なぜここまで“いわくつき”のマンションになってしまったのか。住宅ジャーナリストの榊淳司氏が寄稿した。

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 いまだ収まらない新型コロナ感染拡大で、東京五輪の開催が危ぶまれている。

 それに伴い、マンション業界では、選手村の建物をマンションに改装して分譲される「晴海フラッグ」がどうなるかに注目が集まっている。

 このマンションは分譲住戸が4145戸。東京都心近辺で開発された物件の中ではかなりの規模である。「中央区」というアドレスでは、過去最大クラスと言っていい。

 販売開始は2019年。莫大な広告費をかけて募集が行われ、第1期1次600戸の登録が行われたのは同年の8月の上旬だった。登録抽選や、その後の契約などはお盆の期間をまたいでいた。

 お盆期間は多くの人が休暇中であり、国内外への旅行で自宅から離れる人も多い。それゆえ、通常はこの期間には募集はもちろん、買い主側に多額の支払い義務が生じる契約業務などを行うことはほとんどない。つまり、マンション業界ではあり得ないスケジュール設定だったのだが、それには理由があったはずだ。

 このマンションが広告デビューしたのは18年の秋。当初の販売開始予定は19年の5月だった。それがずれにずれて、業界ではタブーとされるお盆時期の契約。おそらく、当初のもくろみ通りに購入見込み客が集まらなかったのではないか。

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