三信交通の社長は、「タクシーの仕事はマニュアルではなく、心でやる仕事なのです」と言った。しかし私には、畑島のような人間のことが本当には理解できないのかもしれない。

 最後に、残忍で傲慢な聞き方だとは思ったが……。

「畑島さん、生きていて何が楽しいですか」

「自分が喜んでいると、それがお客様にも伝わって、お客様も喜んでくださるのかななんて。自己満足かもしれませんけれど、人間は人に喜んでもらうために、生きているのかななんて思います」

「畑島さんの宝物ってなんですか」

「バッヂです。逆境でも、もがいているときでも、やっぱり、バッヂがあるんで」

 阿弥陀経の中に「雑色雑光」という言葉が出てくる。さまざまな色が、さまざまな色のまま、それぞれに光り輝く様を指す言葉だという。

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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