離婚や別居など婚姻関係の破綻によって、両親の片方が子どもに会えなくなる。そんな家庭が後を絶たない。会えない側の親のみならず、両親の双方に愛されて育つべき子どもにとっても、それは大きな悲劇だ。しかし、その悲劇はいとも簡単に起こり得る。しかも「会えなくなる」のは父親ばかりではく、母親も例外でないのだ。
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これまで、離婚や別居後に「子どもに会えない」悲劇の主人公の多くは父親だった。裁判で親権を決める場合、判断基準の一つとして「母性優先の原則」や「監護の継続性」があるため、母親が親権を得ることが多いからだ。
実際、「ひとり親」といえば、ほとんどの人がシングルマザーを思い浮かべるだろう。行政のひとり親家庭支援も、おもにシングルマザーを対象としている。
だが、実は離婚・別居後、「子どもと会えない」母親も少なくない。虐待やDVなど子どもにとって不利益な行為がなくても、母親が親権を失うことはある。親権に有利なはずの母親で、なぜそんなことが起こるのか。背景には、どんな問題があるのだろうか。
保坂理津子さん(仮名・45歳)は、15歳と10歳の息子の母親だ。夫の実家にいる10歳の息子と、この2年間、ほとんど会えていない。
2年前、家具の配置で意見が合わず、夫婦げんかをした。夫は理津子さんの首を絞め、引きずり回すなどの暴力をふるい、1人で家を出て実家に帰ってしまった。夫は理津子さんと離婚したいと言い、そのまま実家で暮らし始めた。もともとあまり仲は良くなかったが、大きな問題があったわけではない。離婚など、理津子さんには到底、納得できなかった。
別居後、理津子さんは1人で子どもの育児をしながら、子どもたちと夫を定期的に交流させていた。子どもには父親が必要だと考えたからだ。
しかし、それが「あだ」となった。夏休みのある日、次男と会った夫は、そのまま自分の実家に連れ帰った。結局、そのまま次男を理津子さんの元に帰さなかった。理津子さんが慌てて迎えに行くと、次男は「ママと帰りたい」と号泣するが、夫、義両親、義妹に追い返されてしまう。いつのまにか転校手続きもとられていた。