さらに、元夫は児童精神科の医師による息子の診断書を出してきた。そこには、「息子はうつ病で、母親の私に会うと具合が悪くなるから面会交流は行うべきではない」といった内容が書かれていた。その診断書のせいで、面会交流の申し立ても却下された。

「診断書を見て、あまりのいいかげんさにびっくりしました。連れ去り後、私は息子にまったく会えていないのに、なぜ私に会うと具合が悪くなるなどと言えるんですか? 私に聞き取り調査もせず、元夫の言い分だけでそんな診断書を書いてよいのでしょうか?」

 るい子さんの怒りは、元夫に対してはもちろん、元夫の求めに応じてそのような診断書を書いた医師にも向けられている。

「人の人生を左右するような重大な診断書は、十分な調査をしてから書くべきだと思うのです」

 この7年間、るい子さんはあらゆる努力をして息子に会おうとした。ひと目だけでも顔を見たくて、家の前まで行って待ち伏せたり、学校の公開授業や運動会などに行ったりした。しかし、るい子さんに気づいた元夫が「不審者」として警察に通報。親権をもたないるい子さんは、学校から追い返されてしまう。何も悪いことをしていないのに、親権がないというだけで警察にまで通報されることに、るい子さんは憤る。

「その後、元夫は私が学校に現れるのを恐れ、公開授業や運動会などの行事の際には、息子に学校を休ませるようになりました。私が待ち伏せできないよう、登下校にも付き添っているようです。思春期にそんなことをされたら、友だち付き合いにも支障が出ますよね。知人を通して、息子は不登校気味だと聞きました」

 元夫の異常なまでの息子への執着の前に、るい子さんはもはやなすすべがない。会えなくて悲しいのはもちろんだが、それ以前に、偏った子育てが息子の健やかな成長を阻んでいることが心配で心配でたまらない。

 離婚・別居における子どもの連れ去りは、母親がするものだと思われがちだ。実際、まんがやドラマなどでも、母親が子どもを抱いて「実家に帰らせていただきます!」と言い放つシーンはよく出てくる。

 しかし実際は、この2つの事例のように、父親が子どもを連れ去ることもあるのだ。そして、いったん連れ去ってしまえば、「監護の継続性」から、子どもの親権は連れ去った側が有利になる。母親であろうと父親であろうと関係ない。「連れ去り勝ち」という言葉もあるほどだ。

 子どもを連れ去られた側は、尋常ではない苦しみを負う。そして、何より不幸なのは、まるで「物」のように、連れ去られたり囲い込まれたりする子どもである。

 離婚・別居後の子どもを守るために、私たちにできることは何だろうか。(取材・文=上條まゆみ)