また東芝は、太陽光発電による水電解から製造した水素と火力発電所の排ガスからのCO2でメタノールを製造する人工光合成の実証事業を2018年より開始しています。

 今後、効率の良い「人工光合成」の実現を期待したいところです。

■   よく耳にするキーワード「水素」

 グリーン成長戦略を語るうえでは、光合成にも登場した「水素」が一つのキーワードになります。クリーンな電気を使えばCO2排出量を減らすことができますが、その電力は相変わらず化石燃料による火力発電に頼っています。そこで、その発電に水素を利用すべきでしょう。代表的なケースは、燃料電池を使った電動車です。

 植物が光合成を行う過程で、水は酸素と結果的に水素に分解されますが、その水素と酸素を使って電気エネルギーを獲得する仕組みが燃料電池です。その原理は180 年前に見つけられていましたが、燃料電池の開発が遅れたのは、水素を容易に安価に得る方法が課題だったのと、気体であるがゆえに運搬と貯蔵方法が困難だったからです。

 水素の製造方法はいくつかあります。水の電気分解による水素製造、苛性ソーダ製造の副生水素(NaClの電気分解)、製鉄所コークス炉からの副生水素、化石燃料(石油のナフサ)の水蒸気改質による水素製造、光触媒による水素製造(人工光合成)があります。これらのうち、化石燃料のナフサを使う製造方法が、現時点では大量に安価に水素を製造する方法かもしれません。

 水素の運搬・貯蔵についても開発が進んでいます。高圧ガス、液化水素、パイプライン、有機ハライド(有機水素化物)による輸送・貯蔵があります。有機ハライドを使う方法を紹介しましょう。

 製造された水素ガスを、触媒を使って液体の化合物(トルエンからメチルシクロヘキサ ンに)に変換します。液体のかたちで運搬し、その後、必要な時にその液体から触媒を使って水素を取り出すという方法です。その化学反応(メチルシクロヘキサンからトルエンに)が開発され、このプラントは千代田化工建設で稼働しています。将来的には、メチルシクロヘキサンを水素ステーションに運び、オンサイトで脱水素して燃料電池自動車に供給することも検討されています。このためには、脱水素装置の小型化に向けた技術開発が必要です。

 アンモニアは窒素と水素から製造されていますので、水素のキャリアとしてアンモニアを活用することも検討されています。合金に水素原子を吸蔵させることで水素を輸送・貯蔵する「水素吸蔵合金」についても開発が行われています。水素を二酸化炭素と反応させることでメタンに変換、そのまま都市ガス導管に流し、燃料として用いる取り組みも検討されています。

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未来への投資と考えられるか