菅義偉首相の10月末の「温室効果ガス実質ゼロ」宣言以降、にわかに「脱炭素」に向けての官民の動きが加速しています。例えば政府は、欧米や中国の発表に遅れて、2030年半ばに新車販売からガソリン車をなくすことを検討、自動車メーカー各社は電動車の開発を加速させています。この「脱炭素」を考えると、どうしても二酸化炭素(CO2)の排出抑制に目が向きがちですが、別の視点からの技術革新について、徳島大学名誉教授・和田眞さん(専門は有機化学)が解説します。
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■ CO2の有効利用するとは
「脱炭素」や「低炭素」が叫ばれていますが、化石燃料はCO2排出の元凶とはいえ、エネルギー獲得そして社会生活と経済を維持するためには、当面は化石燃料を使わざるを得ません。CO2の排出そのものをどう制御するかという視点も大切ですが、ゼロに近づけるためにはCO2を悪玉にしないで、その有効変換・利用する技術にも目を向けるべきでしょう。
つまり、CO2から生活に役立つ物質を生み出す技術の実用化です。
実は化学的には、排出されるCO2を使って、プラスチックや薬品などの原料となるような有用化学物質の合成が可能です。有用化学物質とは、種々の炭化水素(メタン、エタン、エチレンなど)、アルコール(メタノール、エタノールなど)、カルボン酸(ギ酸、酢酸、炭素数の多い脂肪酸など)、ポリカーボネート類のポリマーなどです。例えば、アルコールの一種のメタノールは燃焼として使われるほか、農薬、塗料、接着剤、合成樹脂の製造まで広く利用されています。
現代の「錬金術」とも思えてしまう手法ですが、「錬炭素術」、「親炭素術」(親炭素については後述)と言ってもいいでしょう。火力発電所などから排出されるCO2を、有用化学物質に変換できればCO2削減に寄与することは間違いありません。
■ 自然界に学ぶ「人工光合成」に期待
CO2を利用する自然界にある優れた反応といえば、植物の光合成です。小学校・中学校でも習う光合成は、植物が太陽のエネルギーを使って、CO2と水から有機化合物の一種である糖質(デンプン、セルロースなど)と酸素を産生する反応として知られています。この反応を人為的に行うのが「人工光合成」の技術です。