ベンチャー設立で開発と事業化を加速する

 若宮さんは有機化学の研究者としてのバックグラウンドを武器に、これまでもこの太陽電池の高性能化に大きな貢献をしてきたが、目下取り組んでいるのは以下の2つだ。

 ペロブスカイト太陽電池にはもともと、鉛が使われてきた。しかし、若宮さんは生体や自然環境に害を及ぼす鉛を、害の少ない「錫(すず)」に置き換えようとしている。まだ効率は鉛を使ったものには及ばないが、年単位で着々と上がりつつある。

 もうひとつは「ロール・トゥー・ロール」方式を使った製造法の開発。この方法なら、まるで印刷物を「刷る」ように簡単に太陽電池が作れ、シリコン系とは比較にならない低コスト、低エネルギーで製造できる。遠からず、ホームセンターで気軽に若宮式太陽電池が買える日が来るかもしれない。

「ちょっとワクワクするでしょう?」と若宮さんは、大物を狙って船に乗り込む釣り師のような笑顔を見せる。

 もちろん、夢と可能性だけでは実現しない。若宮さんはこの太陽電池を世に出すべく、仲間とともにベンチャー企業「エネコートテクノロジーズ」を立ち上げた。同社は京都大学のベンチャーキャピタル「京都大学イノベーションキャピタル」から出資を受け、研究開発と事業化を加速させている。

「2025年の大阪・関西万博で、僕たちが作るペロブスカイト太陽電池の可能性の大きさを世界に見せられたらいいなと思っています。そういう場から、新たな用途や研究開発の方向性も見えてくるはずですから」

 新たな太陽電池は人類の未来を変える。若宮さんは万博、そしてSDGsという飛び石に足をかけ、より遠くの未来へ釣り竿を大きくしならせる。

                         (文・江口絵理)

若宮淳志(わかみや・あつし)/2003年京都大学大学院博士後期課程修了。博士(工学)。名古屋大学助手、助教を経て、2010年京都大学化学研究所准教授、2018年より現職。同年、株式会社エネコートテクノロジーズを創業。最高技術責任者を務める。

※『SDGs MOOK』(朝日新聞出版)より転載