「だからさ、ここは最後の砦なんだよ。要するに俺は家族に見放されたんだよな。トラックやってた時代から寿町がどんなところか知ってたから、ここが終の棲家かと思うと一抹の寂しさはあるよな。もう一歩踏み込んで相手の気持ちを考えてりゃ、こんなところに住んじゃいないんだろうけど。いまは懺悔の気持ちしかないんだよ」

 なぜ、荒くれ者の大久保が女性にモテたのか。私には最後まで、その理由がよくわからなかった。

「自惚れて言わしてもらえば、俺の心の根底にお袋の言葉があったからだろうな。お袋は結核で家事ができなくて年じゅう親父に手をあげられてたから、勝坊、男は強いのが当たり前なんだから、絶対、女に手をあげちゃいけないよって、よく言われたんだ。俺は、女には優しいんだよ」

 エアコンの利きすぎた狭い部屋に、なぜか、温かい血が通い始めるのを感じた。

「でもな、しんねこになって情が絡むと抜き差しならなくなるのがわかってるから、それは嫌なんだ。こっちもそうなっちゃうからね。かといって、女を渡り歩くほど器用じゃねぇし。まぁ、俺はどんな殺され方をしても仕方ないな」

 妻はまだ籍を抜いてくれとは言ってこないんだと、大久保はつけ加えた。