――『頑張らない台所』は、きちんと生きるために、家事を簡単にして楽をしようというメッセージが込められているのですね。“村上流”のラクの提案。

 そうなんです。私が普段作っている1人分の料理に共鳴してくださる方が多かったんですね。『お料理の先生がこんなに簡単で、ラクをしているのか!』と驚かれるかもしれませんが、それがかえって皆さんの励みになるんじゃないかと思ったんです。

 私は78歳ですが、同年代の友人たちも多くは子どもとは同居せず、夫婦2人暮らしか1人暮らしが当たり前。子どもに面倒を見てもらおうと思っている高齢者は少ないんですね。だから、年をとっても自分のことは自分でできなきゃいけないわけです。今後さらにその傾向は強くなると思います。

 自立した老後を目指すなら、頑張らなくてもいいのです。自然にできる方法をみつけてほしいと思います。

――簡単でかつ、“おいしい”ことも大事だと。職業柄、そこはこだわりがあるのですね。

 もちろん、それもありますが、私自身の体験から得たことでもあるのです。

 実は、37歳のときに18本の歯を抜き、顎の骨を切り開いて削る手術を、4年ぐらいかけて10回行っているんです。骨髄炎で、あごの骨に菌が入って軽石状になっていたのです。

 義歯を入れるまで4年間歯がなかったため、介護食にも詳しくなりました。そのとき、歯がない状態でも、舌とあごでも結構、食べられるということわかったんです。でも、当時は介護食においしいものが少なかった。介護食もなるべく普通食に近いもの、おいしいものを作りたいという気持ちが強いんです。

 それは、普段の食事でも同じこと。おいしいと、意欲がわいてくる。年齢とともに体の機能が衰えてきても、やはりおいしいものを食べてほしいという思いがあります。だから、料理はラクなだけでは続かない、おいしくないと続かないと思うのです。

――“ラクしておいしい”を実現するために、いま注目していることはありますか?

 コンスタントに食べるためには、自分で作るだけでなく、今の時代、“頼り”があってもいいと思っています。その1つがコンビニです。

 近所のコンビニに、あるおじいさんが毎朝新聞とコーヒーを買いに来ていたんです。聞けば、1日に3回ほどそのコンビニを利用するそうです。家でコーヒーをいれずとも、店に来ればいれたてのコーヒーが飲めて、店員さんともおしゃべりができると教えてくれました。おじいさんの楽しみにもなっているようでした。

 今のコンビニは総菜やお弁当が充実しているだけでなく、肉や魚も単身者用の小さいパックで売られていますから、買い過ぎることがなく食品ロスも防げます。いつも新鮮なものが食べられるのです。

 数店舗のコンビニをまわって買い込み、それを何回もやって栄養価はもちろん商品を調べ尽くしました。出た結論は、高齢者はコンビニを利用しない手はないなということです。だから、私もよく利用していますよ。

(プロフィル写真 柴田愛子、聞き手/スローマリッジ取材班 時政美由紀)

村上祥子(むらかみ・さちこ)/料理研究家。管理栄養士。公立大学法人福岡女子大学客員教授。1985年より福岡女子大学で栄養指導講座を担当。治療食の開発で、油控えめでも1人分でも短時間においしく調理できる電子レンジに着目。以来、研さんを重ね、電子レンジ調理の第一人者となる。「ちゃんと食べてちゃんと生きる」をモットーに、日本国内はもとより、ヨーロッパ、アメリカ、中国、タイ、マレーシアなどでも、「食べ力(ぢから)®」をつけることへの提案と、実践的食育指導に情熱を注ぐ。「電子レンジ発酵パン」をはじめ「バナナ黒酢®」「たまねぎ氷®」など数々のヒットを持つ。これまでに出版した著書は累計400冊、965万部。http://www.murakami-s.jp/