早稲田大理工学術院の所千晴教授は資源循環工学、粉体工学に取り組んでいる。1998年早稲田大理工学部資源工学科卒業、2003年東京大大学院工学系研究科地球システム工学専攻博士課程修了。その後、04年早稲田大理工学部助手、07年に理工学術院専任講師、2009年に同准教授となり、2015年から同教授をつとめる。

 早稲田大のなかでもかなり若くして准教授、教授となった。それだけ研究業績が評価され、優秀であるということであろう。

 所教授は研究テーマを次のように話している。

「私は資源循環工学を専門としています。その研究の一つが、粉体プロセッシングという技術を用いて、パソコンやスマホなど電子機器から、有用金属を分離する技術の開発です。都市鉱山に眠る金属材料を得るためには、固体を溶かす方法が効率的ですが、そのために膨大なエネルギーが必要で、それは環境に負荷をかけます。粉体プロセッシングは、これを溶かさずに固体の状態のまま必要な物質の粒子を分離する、もっとも環境負荷が小さい技術です。目的の物質だけを分離するのは、簡単ではありませんが、開発した技術は実際の企業でも活用されています。社会に直接貢献ができ、やりがいが感じられる研究だと思っています」(ウェブサイト・河合塾「みらいぶっく」2020年5月)

 日本学術会議会員のなかには、今回の任命拒否に批判的な大学教員がいる。東京大大学院法学政治学研究科・法学部の苅部直教授はこう記している。

「中立性が求められる機関のメンバーについて、選別をしている雰囲気だけは醸して、たとえば安保法制に反対した人をランダムに外している。しかも、表向きは絶対に理由を明かさない。こんなことをしていたら、結局、直接的な抑圧と同等かそれ以上に、社会全般で、ものを言おうとする人の意志を萎縮させかねません。学問の自由どころか、思想信条の自由、表現の自由を危うくさせる。社会の自由度、寛容度を下げる危険性がとても高いと思います」(毎日新聞10月22日)

 京都大大学院法学研究科の高山佳奈子教授は、10月23日、日本外国特派員協会での会見でこう話している。

「内閣総理大臣には日本学術会議会員を自分で選ぶ権限がありませんので、今回、日本のトップレベルの研究者6人の任命を拒否していることは明らかな違法行為です」

 高山教授は2010年代半ば、安保関連法案反対運動に加わったり、昨年の憲法記念日の集会で「変えるべきは憲法でなく、安倍政権です」と訴えたり、政府には相当辛らつな言葉を投げかけていた。

 菅首相は任命拒否について、「(学術会議の)総合的・俯瞰的な活動を確保する観点から判断した」「説明できることとできないことがある」と煙に巻く答弁を続けている。これではだれも納得できない。そして出てきたのが、「民間出身者や若手が少なく、出身や大学にも偏りがみられる」であるが、これも具体的に何を指しているのか、その根拠はどこにあるのか。説明が十分ではない。

 若手を増やすこと、出身、大学を多様化させるのはおおいに結構である。だが、優秀な若手で地方大学所属だが政府に批判的ゆえに任命されなかった、ということはあってはならない。専門知からの批判によって政策の間違いやひずみを正してくれる、だから安心だ、くらいの度量を首相が持ってこそ、日本学術会議の存在価値が高まるはずだ。

(文/教育ジャーナリスト・小林哲夫