私はもともとビジネス書が大好きで、あらゆるビジネス書を読みあさって仕事の効率化に努めてきました。あわせて成功者の哲学も自分にたたき込んでいたように思います。よく言われる「結果を残したいなら人が休んでいる間も働け」という言葉を、呪文のように唱えながら10年以上働いていたと思います。その言葉は呪いのように自分を苦しめ、私は週末も全く休めない精神状態になってしまいました。

 医師が休むためには、患者さんを含む一般の方々の理解が必要です。医師が休むことに対して、いまだに認めていただけない空気が存在しているようにも感じます。休まずに働き続けた医師に自分の命が預けられるかどうか、いま一度真剣に考えていただきたいと思います。

 また、医師同士がお互い監視して休めない空気を作り出すのも問題でしょう。幸い、熱を出したら無理をせずに休めるように病院も変わってきましたが、いまだに有給は取りづらい職場もあります。患者さんの状態にもよるのですが、医師も休まなければ働けないことを私たち病院の中間管理職は肝に銘じておく必要があります。

 私は幸い、スイスに留学をしたことでしっかり休むことができるようになりました。それからは燃え尽きてしまうことがないよう、自分の体調に注意しながら働き続けることができているように思います。また、自分のなかで働きすぎのサインを見つけ出したことで、倒れる前にストップをかけることもできるようになりました。私の場合は、髪の毛を切りに行く余裕がなくなったら危ないサインです。

 医師としてバーンアウトせずに働き続けるには、働きやすい環境作りや周りの理解が必要です。私は一度動けなくなった経験から休めるようになりましたが、いまのコロナ禍で休めない医療従事者はきっと多くいるだろうと心配しています。

 医療従事者に負担がかかっているコロナ禍のいまだからこそ、医師の働き方については国民全体で考えたい課題だと思っています。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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