「自分のブランドのユーザーは特別ではない」という指摘はまさにその通りで、「自分のブランドのユーザーは、時々自分のブランドを使ってくれる他のブランドのユーザーでしかない」とのエビデンスを明確に示してくれています。ほとんどの場合、自社ブランドと競合ブランドでユーザーのプロファイル(年齢や購買履歴など)に差がないというデータは、多くのマーケターが陥りがちな「自分のブランドお客さまは特別」という先入観を見事に打ち砕いてくれます。

 関連して「ペルソナを作るな」との提言もありました。顧客を具体的な一つのペルソナ(人物像)に当てはめて考えると、確かに打ち手がイメージしやすくなるので、近年よく使われるマーケティング手法なのですが、多様な顧客を単純に一種類の人物像にして戦略を考えるというのは、やはり間違いでじょう。

 欧米のデータに加えて中国やインド、メキシコなど新興市場のデータも豊富に取り上げているのが前作にはない本作の特長です。一般的なマーケ本では欧米市場の事例やデータのみを取り上げるケースが圧倒的に多いので、このデータは貴重だと思います。たとえば近年、東南アジアのマーケティングでは「インフルエンサーが大事」と言われていますが、「東南アジアのほうが欧米よりもインフルエンサーが効くというデータは一つもない」とはっきり指摘しています。

 また、グローバルブランドに携わるマーケターは往々にして「自分たちは特別(ローカルブランドとは違う)」と思いたがりますが、顧客のプロファイルなどについて、グローバルブランドはローカルブランドと差がなく、何ら特別ではないことも証明しています。いずれも非常に示唆に富むエビデンスだと思います。

 多くのマーケターが忘れている「とてもベーシックなこと」を思い出させてくれるのも前作同様、本作の特長です。前作でも本作でも、「メンタルアベイラビリティ=購買状況下でブランドが想起されやすいこと」と「フィジカルアベイラビリティ=ブランドが見つけやすく買いやすいこと」の両方が大事だと強調しています。ちょっと考えたらわかりますが、マーケティングは、その両方をやらなければ、ビジネスを伸ばすことができません。マーケティング部門は配荷向上などを「自分の仕事ではない(営業の仕事)」と考えがちですが、どんなにユニークなブランドでも、あちこちで手に入らなければ全く意味がないし、実績にはつながりません。

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今日のマーケティングは仕事が細分化されすぎていて…