ところが、スコアボードには、なぜか得点1が表示されているではないか。「何があったのかわからなかった」と鳴門ナインが目を白黒させたのは言うまでもない。

 実は、三塁走者・中村謙太が帰塁をせずに、、松永がアウトになるよりも早く、本塁を踏んでいたのだ。もし鳴門の一塁手がボールを三塁に転送してアピールしていれば、アウトが宣告され、得点は認められなかった。だが、鳴門ナインは併殺成立の直後、ベンチに引き揚げてしまったため、アピール権が消失し、3点目が認められたというしだい。

 このルールの盲点をついたプレーは、水島新司氏の「ドカベン」の中で紹介されており、1死満塁でスクイズが小飛球になった際に、三塁走者が本塁に突っ込み、併殺が成立する前に決勝のホームを陥れるというもの。

 小学生のときにこの話を読んだ中村は「いつか実戦で生かそう」と考えていた。そして、河野が三塁を見なかったことから、「イケる!」と判断。確信犯で本塁に突っ込んだ。

 済々黌に勝利をもたらしたこのプレーは、“ドカベン走塁”として記憶されることになった。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2019」(野球文明叢書)。

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久保田龍雄

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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