「あり得る最も可能性の小さい、そんなシーンが現実です」

 07年の決勝戦、7回を終わって4対0とリードし、勝利を目前にしていた広陵だったが、8回に悪夢とも言うべき大どんでん返しが待ち受けていた。

 7回までわずか1安打に抑えられていた佐賀北はこの回、1死から連打と四球で満塁と反撃。マウンドの野村祐輔(現・広島)は2番・井手和馬にもカウント3-1と苦闘するなか、5球目は渾身の直球が外角低め一杯に決まったかに見えたが、判定は無情にも「ボール!」。捕手・小林誠司(現・巨人)がミットを3度も地面に叩きつけて悔しがるほど微妙なコースだった。

 そして、皮肉にもこの押し出し四球で、流れは一気に佐賀北へ。次打者・副島浩史は、野村のスライダーが甘く入るところを見逃さず、左翼席に起死回生の逆転満塁本塁打。思わず「まさか!」と目を疑いたくなるような奇跡の大逆転劇を、冒頭の言葉で表現したのが、NHKの小野塚康之アナだ。

 さらに、一発のショックから野村の投球が乱れはじめると、「野村頑張れ、頑張れ!」。公正中立がモットーのはずの実況アナが一方のチームのエースを応援していると受け取られかねない珍しい場面だったが、悲運のエースの苦しい心中に思いを馳せていたファンは、「よくぞ自分の気持ちを言ってくれた」と共感したはずだ。

「日本文理の夏はまだ終わらない!」

 09年、新潟県勢初の全国制覇の夢を乗せて決勝進出をはたした日本文理は、中京大中京に4対10と大きくリードされて最終回の攻撃を迎えた。

 8番・若林尚希が三振、9番・中村大地が遊ゴロで、あっという間に2死。だが、ここから球史に残る怒涛の猛攻が始まる。

 1番・切手孝太がフルカウントから四球を選ぶと、2番・高橋隼之介の左中間二塁打で、まず1点。3番・武石光司も右翼線を破り、もう1点を返すと、4番・吉田雅俊も、三邪飛を三塁手が見失い、捕球に失敗する幸運で命拾いした直後、死球で一、三塁とチャンスを広げる。

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