2006年の甲子園を盛り上げた八重山商工のナイン (c)朝日新聞社
2006年の甲子園を盛り上げた八重山商工のナイン (c)朝日新聞社

 夏の風物詩・高校野球は、これまでにも数多くの名勝負や名場面が演じられてきたが、これらの印象深いシーンとともに、ファンの間で熱く語り継がれているのが、甲子園大会のテレビ中継で、アナウンサーが口にした名セリフの数々だ。球史に残る熱戦には、名実況あり。そんな思い出に残る“珠玉の言葉”を集めてみた。

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「甲子園は清原のためにあるのか!」

 1985年、桑田真澄、清原和博の“KKコンビ”を擁するPL学園は、2年ぶりの全国制覇をかけて決勝で宇部商と対戦したが、3回まで無得点に抑えられ、1点リードを許す苦しい展開。そんな劣勢を救ったのが、4番・清原のバットだった。4回に左翼ラッキーゾーンに同点ソロを放つと、2対3と再びリードを許した6回にも、古谷友宏の内角高め直球をフルスイング。金属バット特有の快音とともに、バックスクリーン左に大会新記録(当時)となる5号同点ソロを叩き込んだ。

「ホームランか?ホームランだあ!」と絶叫したのは、朝日放送の植草貞夫アナ。笑顔でダイヤモンドを1周する清原がアップで映し出されるなか、なおも独特の語り口で実況を続ける。「恐ろしい!両手を上げた!甲子園は清原のためにあるのか!」。

 PLは3対3の9回に3番・松山秀明の右中間へのタイムリーで劇的なサヨナラV。バットを高々と頭上に掲げながら歓喜の輪の中央に立つ清原の姿も、まさに「甲子園は清原のためにあるのか」だった。

「空を見上げました。沖縄の空にももちろんつながっています」

 06年の3回戦、八重山商工のエース・大嶺祐太(現・ロッテ)は、智弁和歌山の強力打線を6回まで3安打、3ランによる3失点に抑えたが、3対3の7回、三塁線へのボテボテの打球が内野安打になる不運で、2死一、三塁のピンチを招く。次打者は4番・橋本良平。ここで八重山商工は守備のタイムを取り、マウンドに内野手が集まった。

 そして、伝令がベンチに引き揚げたあと、再び一人になった大嶺は、マウンドで気持ちを落ち着かせようと、空を見上げた。冒頭の実況は、この場面を見た朝日放送・中邨雄二アナの口をついて出たものだ。

 約1200キロ離れた甲子園と八重山商工の所在地・石垣島を、「空」をキーワードに瞬時にして結びつけた言葉は、郷里の人々の大声援を力に変えて、強敵相手に真っ向勝負を挑もうとする離島のエースの心中を代弁しているかのようだった。

 だが、勝利の女神は微笑まなかった。カウント3-1から橋本に投じた運命の5球目は、右翼フェンスを直撃する2点タイムリー三塁打となり、大嶺は8回途中7失点でマウンドを降りた。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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