実務の実績が修士修了同等として認められ、博士過程から入れるコースがあることを知って入学を決意した。

「シンクタンクの仕事は民間業務ですので、アカデミックな研究とはだいぶ乖離があります。実務を大学の研究に生かすにはどうしたらいいか、その手法を身につけることが課題でした」

 最初の半年間は集中的に講義を行い、後期からゼミ形式の授業を行っている。現在酒向さんは、博士号の取得に向けて論文を執筆中だ。

「実務は短期の現状分析が主ですが、アカデミックの世界は『そもそも』論を重要視し、既存研究を踏まえた重厚な分析をする。両方体験したことで、実務とアカデミックを結びつけ社会に貢献したいと思うようになりました」

 関水客員教授は社会人が通う条件として、キャンパスが自宅や会社から近いこと、上司や家族の理解を得ること、できれば仕事と関連する分野の履修をすることとアドバイスする。

「社会人が大学院で学ぶためには、仕事との両立が課題になります。周囲の理解がないと通うのは難しい。また、せっかく仕事をしながら学ぶのですから、大学院での学びを仕事にも生かせるような分野を選べば、会社での評価も上がります」

 出身学部と異なる分野の大学院を選ぶと、前提となる知識が身についていないため苦労する。関水客員教授は、そのクッションとして通信制大学の利用を勧める。自身も三つの通信制大学で学んだ。

「費用もそれほどかからないので、通信で学んで大学院に備えるという手もあります。通信での学びを評価してくれる大学院もあります」

 大学院の費用は、国立の場合は大学に準じており初年度は入学金と授業料で82万円程度かかる。ただし法科大学院は国立でも108万円程度。私立は110~130万円が相場だ。選考は秋と冬から春にかけて2回行われる。大学院ごとに日程が異なるので、国公立大学を複数受けることも可能になる。

 関水客員教授は社会人が大学院に行く意義を次のように話す。

「会社だけだと、どうしても視野が狭くなります。苦労も多いですが、いろいろな業種の人と一緒に知的な研鑽を積むことで、人生が豊かになります」

 思い切ってチャレンジしてみよう。新しい道が開けるかもしれない。

(文/柿崎明子)

※AERAムック「大学院・通信制大学2021」から