それでも海開きをする理由については、苦しい胸の内をこう語る。

「夏が一番の書き入れ時で、経済面を考えると、やはり中止にはしづらい。それに、伊豆半島の他の自治体が開いている中、土肥地区だけが開かないというのは、ネガティブキャンペーンになってしまう」

 海水浴客は昨年の何割を見込んでいるのか。

「正直、現時点では何とも言えない。神奈川県が海開きを見送った分、流れてくるかもしれませんし、GoToキャンペーンが予想以上に盛り上がるかもしれない。はたまた外出自粛で人が少なくなるのか。予測は立てづらいです」

 別の担当者も、「ふたを開けてみないと、どのくらい来るのかわからない」と漏らす。

「もしかしたら伊豆に利用者が殺到することにもなりかねない。もしクラスターが発生したら、風評被害も避けられないですし、それこそ壊滅的な痛手になる。コロナは“結果”で判断されます。何がベストな選択なのか、明確な結論が出ていないのが実際のところです。もちろん命を守ることが最優先ですが、休業すれば相当な打撃になる。夏の1カ月の売り上げで、ほぼ1年分を稼ぐような民宿もあります。『今は自粛』と口で言うのは簡単ですが、収束を待っていたら、経済が動かずつぶれてしまう。つぶれてしまっては、復活も何もないですから」(同前)

 自治体も悩みながらの決断だったようだ。

 この判断を専門家はどうみるのか。兵庫医科大学の竹末芳生主任教授(感染制御学)はこう語る。

「密接、密集の状況になれば、屋外でも感染は起こります。地元の人しか来ない浜など、密にならない場所ならいいですが、伊豆の場合は、東京方面からも多くの人が来るはずなので、混雑を避けるのは難しいでしょう」

 浜辺が広ければ、感染リスクは避けられるのだろうか。

「多くの人は、砂浜でじっとしているわけではない。波打ち際まで歩く際や、シャワーを浴びるために列に並んだ時などに、感染リスクが生じます。浜辺で日光浴をする人も、熱中症の心配があるのでマスクをしない人は多いでしょう。浜辺で食事をとる人や、お酒を飲む人もいる。海という非日常の空間では、新しい生活様式の習慣がなくなってしまうので、クラスター発生の懸念はあります。また、海では手で口や目などを触る機会も増えるので、飛沫感染だけでなく、接触感染のリスクも高まります。本来なら、今年は海水浴は控えていただきたいですね」

 コロナ禍という特殊な環境下での海開きには、「予想外」の事態も起こりうる。特に伊豆の各自治体は、市民の高齢者の割合が、全国平均と比べても高い傾向にある。感染リスクの高い市民の安全を確保しつつ、経済を回すことは可能なのか。「海」を観光資源とする各自治体は、難しいかじ取りを迫られている。(AERAdot.編集部・飯塚大和)