関口監督が言う「男らしくなれ」とは、自分が窮地に追い込まれたとき、逃げずに向き合えという教えだ。「夏の甲子園中止」という窮地に追い込まれた選手たちを思い、OBたちの胸にはこの言葉が浮かんだのだろう。

「甲子園が中止になったことを言い訳にせず、努力を続けてほしい」

 自分が教えてきたことを、改めて教え子たちから教えられたという。

「選手たちが納得して3年間を終えられるように準備してあげたい」と関口監督は前を向く。大会が中止になったことで「選手がスカウトにアピールする機会が減ってしまった」と、大学野球部関係者に選手のプレーするビデオを送っている。そして、岩手県の代替大会では、試合ごとにベンチ入りメンバー20人の入れ替えが可能だ。関口監督は「一人でも多くの3年生を出場させたい」と意気込む。そして、5日の初戦(地区予選)に勝利した盛岡大付は、県大会への出場を決めた。目指すのはもちろん優勝だ。

「優勝して初めて、本当の悔しさを感じることができる」

 その思いは、選手たちにも伝わっているはずだ。

■唐津工(佐賀県) 副島浩史監督「ただ高校野球をやって、何か悔しく思えるのかな」

 唐津工の副島浩史監督(31)は、キャッチボールを終えた選手たちを呼び寄せた。アップを終えた選手たちに、その日のメニューを伝える恒例の時間だ。ただ一つ、いつもと違ったのは、選手たちに「甲子園の中止」を伝えなければいけないことだった。

 中止を伝えたあと、副島監督は37人の部員のうち、たった一人の3年生に声をかけた。

「ここまで一人でよく頑張った。中止は残念だが、全国の高校生が同じ思いをしている。代替大会があるのだから、そこに全力でぶつかりなさい」

 だが、言葉の裏には葛藤もある。自分にはこれから先、教員として甲子園を目指す機会は何度もあるだろう。だが、3年生にとっては紛れもない最後のチャンス。副島監督は今でも、「自分のかけた言葉が正しかったのか」と自問を繰り返す。

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甲子園決勝での逆転満塁本塁打