■循環走行距離540.9キロメートル。ワイドスケールの循環列車も!

 この房総一周列車の走行距離は301.4キロに及ぶ。「わかしお」などの房総特急が当時としては違例なまでの短距離特急として話題になったものだが、房総そのものは意外と長い路線を持っていることがわかる。ただし、これらの房総一周列車は蘇我を接続点とする「ラケット型」運転で、純粋な環状運転となっている「いぶり」や「旭川」などとは同列にしづらい面もありそうだ。

 では、ロングラン第1位の列車はというと、名古屋を拠点に高山や金沢、米原などを辿る「しろがね」「こがね」が540.9キロでその座を獲得。高山本線を全線カバーするとともに、ルート上に複数の主要都市を持つことから意外な区間に直通旅客がいたのかもしれない。1972年3月に役目を終えてしまった。なお、臨時列車になるが、1971年から翌年にかけて大阪発着で設定されていた急行「アルペン」は東海道本線~北陸本線(直江津)信越本線~篠ノ井線~中央本線~東海道本線という大周回コースが組まれ、962.6キロに及ぶロングラン列車であった(大阪~米原は重複)。

 九州でもスケールの大きな循環列車が活躍していた。大分発別府ゆき準急「ひまわり」、別府発大分行き準急「火の山」などと記すと、「たった12.1キロしかないけど?」と思われそうだが、わざわざと言おうか、博多や本などを辿ってくる摩訶不思議な列車なのであった。走行距離は478.6キロに及ぶが、沿線には起点の大分はもちろん、博多や小倉など大都市が点在するほか、観光地も擁しており、乗客を入れ替えながらもそこそこの利用者がいたのではないかと推察できる。

 現在は、大分~博多、博多~熊本、熊本~大分それぞれに特急が設定されているが、当時は車両の絶対数の関係などからひとつの列車(編成)で複数の役割を持たせていたとも考えられる。また、現在と比べ移動を鉄道に頼る割合が高かったため、複数の線区をまたぐ直通列車の利用価値がいま以上にあったに違いない。

 ちなみに、外国でも環状路線や循環列車を見ることができる。比較的訪問しやすい例としては韓国ソウルの地下鉄2号線が環状路線で環状運転を実施しているほか地下鉄6号線にラケット型の環状部分がある。

 また、台湾には台北を起終点とする一周列車が運行されている。「環島之星」と呼ばれるツアー列車だが、一部が「@光号1・2列車」として一般発売されており、ツアー外でも乗車可能だ。およそ13時間30分に及ぶ長旅になるが、私自身も海外渡航の制限が解除されたら機会をつくって乗ってみたいと考えている。(文・植村 誠)

植村誠(うえむら・まこと)/国内外を問わず、鉄道をはじめのりものを楽しむ旅をテーマに取材・執筆中。近年は東南アジアを重点的に散策している。主な著書に『ワンテーマ指さし会話韓国×鉄道』(情報センター出版局)、『ボートで東京湾を遊びつくす!』(情報センター出版局・共著)、『絶対この季節に乗りたい鉄道の旅』(東京書籍・共著)など。