※週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』より
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※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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 認知症に効果が期待される新薬の臨床研究は、2019年の時点でわかっているだけでも100以上の薬の治験が世界で進められている。日本では、認知症の進行を抑える薬が4種類使われているが、それらが承認されて以来、約10年、新しい薬は承認されていない。そんななか、年内にも薬事承認されるという見通しの認知症新薬が出てきた。専門家によると、これまでの薬とは異なる効果を持つという。週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』では、世界中で進む認知症の新薬開発と最新研究について、専門家に取材した。

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 2020年4月、アメリカの製薬企業バイオジェンが、日本の製薬大手エーザイと共同開発を進めてきた早期アルツハイマー病治療薬「アデュカヌマブ」を、7月から9月の間にFDA(米国食品医薬品局)に承認申請する、という報道が流れた。作業が順調に進めば、アメリカでの承認の後には、日本でも年内に薬事承認を受ける見通しだ。これはアルツハイマー型認知症の治療の歴史に刻まれる大きな出来事になる可能性がある。

 認知症とは、記憶・知的活動の能力が、日常生活で支障をきたすほど低下・消失する疾患の総称。15年で世界に4680万人の患者がいると推定され、50年にはその数は1億5千万人まで膨れ上がるものと見られている。

 日本では、12年の統計では認知症患者が462万人、“予備軍”を含めると実に約800万人に上ると推計される。団塊の世代が75歳以上に移行する「2025年問題」を5年後に控え、深刻な問題を孕んでいる。

 アルツハイマー型、血管性、レビー小体型、前頭側頭葉変性症などいくつかの種類に分けられる認知症の、実に6~8割を占めるのが「アルツハイマー型」だ。

「アルツハイマー型認知症とは、脳の神経細胞が死滅することで脳が萎縮していく、不可逆的かつ進行性の病気です。このとき、脳の皮質には“老人斑”や“神経原線維変化”と呼ばれる異常な構造物が増えていくのが特徴。老人斑はアミロイドβ、神経原線維変化はタウというタンパクを主成分とし、これらが蓄積していくことでアルツハイマー病が進行していくものと考えられています」

 そう解説するのは国立長寿医療研究センター認知症先進医療開発センター治療薬探索研究部前部長で、大阪大学医学系研究科招聘教授の河合昭好薬剤師。

 冒頭で触れた新薬アデュカヌマブは、このアルツハイマー型認知症の治療薬だ。

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従来の薬が“対症療法”なら、新薬は“根治療法”