テレワークというのは、「個々の責任」や「成果」が明確になる働き方です。同じ空間で仕事をする従来型のスタイルでは、成果や責任の所在が不明確になりがちでした。テレワークの普及によって、結果的に年功序列といった従来型の人事評価制度から、成果主義へのシフトが加速するでしょう。

 私は『未来の年表』において、深刻な労働力人口の減少についても指摘し、対策を急ぐよう求めましたが、テレワークによる成果主義が広まることで、一人あたりの労働生産性は大きく向上することが期待できます。今後の「人口減少社会」における働き方としては、適していると言えます。

 こうしたテレワークの普及により、東京一極集中が解消し、「地方回帰」の流れが進む起点になるかもしれないという声も多く聞かれます。

 多分、ただちに人々の東京離れが進むことにはならないでしょう。人々が東京に集まるのは、仕事を求めてという理由ばかりではないからです。仮に、通勤の必要性がなくなったとしても、ショッピングや文化・イベントなどといった都市機能を求めて東京に住み続けたいという人は多いでしょう。一気に地方回帰の流れが強まるというより、当面は人口過密を嫌って東京圏の郊外へと分散する動きが出てくるのではないでしょうか。

 しかし、テレワークが普及してオフィス街の職場に通う人が少なくなれば、企業は賃料の高い都心に大きなオフィスを確保する必要がなくなります。郊外にサテライトオフィスを構えるところも出てくるでしょう。また、アフターコロナの世界では、人と人とが距離を取ることが定着するでしょうから、地価の安い地方に拠点を移す企業も出てくるでしょう。このような形で地方回帰の流れはじわじわと浸透していくはずです。東京よりは規模が小さくても、それなりに都市機能が整っている県庁所在地のような地方都市で、過密状態を避けながら暮らすという生活スタイルを求める人々が増えると思います。

 そうなれば、国土形成そのものが大きく変わるかもしれません。これまで地価は大都市のオフィス街をはじめ、「人の集まる場所」で高値が付いていました。しかし、通勤という概念がなくなると、“中心地”が多様化します。いずれは、従来のような土地を大きな資産として経済を成り立たせるという考え方も成り立たなくなるかもしれません。今後は土地に対する評価が大きく変わるはずです。

(構成=AERA dot.編集部・飯塚大和)

後編「河合雅司が提言 コロナ復興に向けた日本の“処方箋”」も配信中です。