ジェーン・スー。東京生まれの日本人。作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のMC。著書に、『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』『生きるとか死ぬとか父親とか』『これでもいいのだ』、対談集に『私がオバさんになったよ』『女に生まれてモヤってる!』
ジェーン・スー。東京生まれの日本人。作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のMC。著書に、『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』『生きるとか死ぬとか父親とか』『これでもいいのだ』、対談集に『私がオバさんになったよ』『女に生まれてモヤってる!』

 こんな時こそ欲しい「癒やし」。でも外出自粛のなか、それはかなわない……それならせめて、文章で癒やされてほしい! コラムニスト・作詞家のジェーン・スーさんの最新刊『揉まれて、ゆるんで、癒されて』(朝日文庫)から、ちょっとスッキリした気分になれるエッセイをお届け。仕事でイライラ、凹んだ気持ちを回復するために訪れたネイルサロン。女性がお金を使って癒される効能を考えます。

*  *  *

 仕事、仕事、また仕事。今日はそのうちのひとつでムカッとくることがあって、かなりイラッとしました。早々にスカッとしたい気分です。

 こういう時、私の自尊心はたいてい底を突いています。「ムカッ」も「イラッ」も、不当に扱われたと感じたときに起こりやすい感情だからです。そして、心のどこかで「ああいう扱いを受けるということは、私にはあまり価値がないのかも」と思ってしまう。このままの状態を放置しておくと、ほどなくして怒りは消沈に変わり「どうせ私なんか……」と卑屈モードで固定されてしまいます。よろしくない。大変よろしくない。

 とは言え、明日もフツーに仕事。無謀なことをしてストレスを発散するわけにもいきません。スカッとしながら自尊心も回復できる、なにか良い方法はないものでしょうか。

 あ、そうだ。ペディキュアに行こう!

 突然ひらめき、私は広尾の老舗ネイルサロンに電話を掛けました。ここに行けば、大丈夫。運良く当日の予約が取れ、私は店へと急ぎました。

 十数年前、一世一代の失恋をした時にも、私はこのサロンにいました。ほとほと弱っていた私に、ネイリストさんは優しく微笑みながらこう言いました。

「女には、お金で解決できない悩みなんてないんですよ」

 彼女なりのジョークだったと思います。しかし、手足の指をうやうやしく手入れしてもらったあと、私の心は少しだけ、しかし確実に上向いていました。わかりやすく大切にされるのって、凹んでいるときには特に功を奏します。

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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