おおつ・ゆきお/関西大学客員教授、慶應義塾大学名誉教授。専門は認知科学(言語学)。著書に『英語学習 7つの誤解』(生活人新書)など(写真=本人提供)
おおつ・ゆきお/関西大学客員教授、慶應義塾大学名誉教授。専門は認知科学(言語学)。著書に『英語学習 7つの誤解』(生活人新書)など(写真=本人提供)

 大学入学共通テストへの導入延期が決まった英語民間試験。文部科学省の有識者会議に“唯一の反対派”として参加していた慶應義塾大学名誉教授・大津由紀雄さんが、当時の会議のようすを振り返り、あるべき英語教育について語った。「AERA English 2020 Spring & Summer」(朝日新聞出版)より紹介する。

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 2014 年に文科省で開かれた「英語教育の在り方に関する有識者会議」の委員の一人でした。会議に先立って文科省の担当者から「あまり無茶なことは発言しないでほしい」と釘を刺されました。私はそれ以前から小学校での英語の教科化にも反対していましたし、私が入試改革に賛成していないことは文科省も承知していました。小学校での英語教育や大学入試への民間試験導入は既定路線であり覆せないことはわかっていましたが、それでも言うべきことは言わなければならないと思い、委員を引き受けました。反対派は私一人でしたが、かなり意見は言いました。それが議事録として公開されましたので、委員になってよかったと思っています。

 民間試験導入の一番の問題点は、学習指導要領との整合性です。英検やTOEFLなどが学習指導要領の達成度を測る目的で作られている試験なら話は別ですが、そうではありません。「入試が変われば英語教育が変わる」という論理のすべてを否定しようとは思いませんが、推進派が主張するようなよい効果はあまり生まれないと予想します。結局「テスト対策」に陥ります。そしてテストの結果を学校間、地域間で競うことになります。すべての競争が悪いとは思いませんが、英語教育で民間業者のテスト結果を競うことになるのは、学校教育の本来の姿からかけ離れています。

 私は小学校での英語教育には反対ですが、子どものうちから外国語に触れるのはいいことだと思っています。母語と外国語を比較できるからです。それによって、ことばを複眼的に捉えることができるようになります。

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