一塁ベース上で苦笑いを浮かべたイチローは「珍しい?そうですね。過去に?ない」。通算1168安打(当時)の“安打製造機”も人生初体験の秘打だった。

 このプレーだけでもインパクト十分なのに、この日のイチローは1回に98年10月8日以来の失策を記録したのを手始めに、7回にはお尻への死球で出塁。さらにその直後、二塁に滑り込んだ際にオーバーランでタッチアウトといった具合にギャグ漫画のようなシーンを連発。

 本人もさすがにきまりが悪いとみえ、「エラー?(二塁走者の)石井(浩郎)さんが俊足なので目を切ってしまいました」とジョーク交じりに照れていた。

 ちなみにイチローは、前年6月26日のロッテ戦(神戸)で後藤に4打数無安打に抑えられ、「(前年まで通算4勝)あれぐらいの投手に抑えられるのが一番腹立ちますよ」とコメント。「あの程度とは何だ!」と山本功児監督を激怒させたエピソードでも知られる。

 皮肉なことに、その後、後藤は同年7月18日のオリックス戦(千葉マリン)でも5安打完封勝利を挙げ、10ヵ月後のこの日も5回2失点で勝利投手になるなど、“オリックスキラー”となった。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2019」(野球文明叢書)。

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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