事件が起きたのは、3対8とリードされたオリックスナインが7回の守備に就こうとしたときだった。

 興奮した一人の男性ファンが外野席からグラウンドに飛び降り、センターを守るイチローに向かって、何ごとか叫びながら突進してきた。

「何を言っていたかわからなかったけど、怖かったですよ。線審(パ・リーグはこの年から廃止)もいないですしね」。

 身の危険を感じたイチローは、前年盗塁王に輝いた自慢の俊足をスタコラサッサと飛ばし、レフト方面に緊急避難。何とか事なきを得た。この間に男性は警備員に取り押さえられ、所轄の鹿児島中央署で事情聴取を受けた。

 同署によれば、男性は27歳の元船員で、イチローの大ファン。酒を飲みながら観戦しているうちに、興奮のあまり、我を忘れて走り寄ってしまったという。

 酔客を相手にとんだハプニングに巻き込まれたイチローはこの日、伊良部秀輝からタイムリーを含む2安打を記録したものの、3対4と逆転された直後の6回1死一、三塁、堀幸一の右飛を捕球しようとした際に照明光に視界を遮られて転倒、三塁打にしてしまうボーンヘッドも。9回に2点差に追い上げる右越え3ランを放ったが、自らのミスが影響して試合に敗れたとあって、「お粗末なプレーです」と反省しきりだった。

 イチローがプロゴルファー顔負けの“秘打”を披露したのが00年5月14日のロッテ戦(神戸)だ。

 1回裏2死一塁、イチローは後藤利幸の125キロフォークがホームベース前でワンバウンドしたにもかかわらず、右手1本でミートし、見事右前安打にした。漫画「ドカベン」の悪球打ち・岩鬼正美も真っ青の曲打ちに2万5千の観客も思わず目を白黒。

 打たれた後藤も「(フォークを)振ってきそうな感じがしたので、届かない低めを狙いました。狙いよりずっと手前でワンバウンドしたんですが、“やった!振った!”と思ったのに、当てるんじゃなくて打っちゃいましたね。アイツはスゴイ!」と脱帽した。

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“安打製造機”の人生初体験の秘打