藤原史織(ブルゾンちえみ)(c)朝日新聞社
藤原史織(ブルゾンちえみ)(c)朝日新聞社

 3月末に事務所を退所した藤原史織(ブルゾンちえみ)が、4月12日放送の『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)でブルゾンちえみとして最後のテレビ出演を果たした。エンディングでは涙を浮かべながら「また会える日を楽しみにしています。ありがとうございました」と言い残した。将来の目標を尋ねられて「世界中の男を集めたショーをやりたい」と答えていた。

【写真】ブルゾンちえみの幼少期の貴重な姿

 ブルゾンちえみという名前の芸人がこの世から消えてしまった今、あえて問いたいことがある。「ブルゾンちえみ」とは何だったのか?

 私の見解では、それは多くの人が携わる一大プロジェクトだった。本人、事務所スタッフ、テレビ制作者などが一丸となって「ブルゾンちえみ」というプロジェクトに携わってきた。そして、それが2020年3月31日に終了を迎えたのだ。

 2017年に『ぐるナイおもしろ荘2017』(日本テレビ系)に出たことがきっかけで大ブレークした当初から、ブルゾンちえみは毀誉褒貶(きよほうへん)の激しい人物だった。

 最初に彼女を熱心に支持したのは主に同世代の女性たちだった。ブルゾンがネタの中で演じていたのは、仕事にも恋愛にも妥協せず、エネルギッシュで意識の高いキャリアウーマンだった。元カレのことが忘れられず、恋に臆病になっている若い女性に対しては、地球上に男は「35億」もいるから大丈夫、と励ましの言葉を送った。自分から狩りに出なくても待っていれば男は自然と寄ってくると断言し、「ああ、女に生まれて良かった」とつぶやいた。自らが女性であることを堂々と肯定するこのポジティブ思考が、世の女性たちに勇気を与えた。

 一方、ブルゾンを1人の「芸人」として見た場合、実力不足ではないかと不満を述べる人もいた。彼女はブレークした時点ではまだ芸歴2年目だった。もともと芸人志望だったわけでもないのに、ひょんなことからお笑いを始めて、瞬く間にテレビの最前線に放り出されてしまった。一緒にテレビに出ている歴戦の芸人たちと比べれば、物足りなく見えてしまうのはやむを得ないことだ。

 事務所側もそのことは承知していたのだろう。彼女が出演する番組はかなり慎重に選ばれていたように見えた。例えば、同世代の若手芸人と横並びで競争しなくてはいけないようなお笑い要素の強い番組にはほとんど出ていなかった。ブルゾンは初めから「芸人」ではなく「お笑いタレント」として売り出されていた。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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