文献や標本調査のために世界中を飛び回るはめになり、最初の発見から新種として論文を公表するまでに長いタイムラグが生じるのは、分類学者あるあるの悲しい話。カクレマンボウの場合は新種の証明に至るまで12年もかかった。

■ カクレマンボウ新種認定までの道のり

 カクレマンボウの新種フラグが立ってから認定されるまでの道のりを論文ベースで簡単に振り返ろう(詳細は著書『マンボウは上を向いてねむるのか』にて)。

・2005年。DNA解析によって示されたマンボウ属の系統樹は、それまで知られていた種よりも多く、4集団に分かれた。
・2009年。遺伝的に分かれた4集団は3種に相当することが示唆されたが、そのうち1種の形態は不明だった。
・2017年、この遺伝的にしか知られていなかった1種の形態が判明し、新種に相当すると科学的に認められ、カクレマンボウと命名された。

 種小名のtectaは「隠れる、欺く」などの意味があり、長い間、他のマンボウ類に隠れて人をだまし続けたことが由来だ(我々が勝手に被害者ぶっているだけで、カクレマンボウは人をだますつもりなんて毛頭ない)。標準和名の「カクレ」も学名の隠蔽種的側面にちなんで命名した。イソギンチャクに隠れる習性が名の由来のカクレクマノミの「カクレ」とは意味が違うことを覚えておいて欲しい。

■2020年2月時点で明らかにされている形態と生態

 カクレマンボウを他種から識別しやすい形態的特徴は以下の通りだ。

・舵鰭(尾鰭に見える部分)縁辺の中央部が一ヵ所だけ凹む
・後延帯(舵鰭基部から縁辺の凹みに延びる帯)がある
・体表の鱗が円錐形で、先端が枝分かれしない

 カクレマンボウは世界でまだ50個体ほどしか調査されておらず、寿命・繁殖・回遊など生態は謎だらけであるが、現在論文やニュースで公表されている最新情報を以下にまとめよう。

・体サイズ:全長39.6~242 cm
・雌雄:外観は似ているが、生殖腺は明確に異なる
・出現地域:ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、チリ、ペルー、オランダ、アメリカ(カリフォルニア)
・消化管内容物:サルパ類、クダクラゲ類
・出現した表面水温:15~17.9度
・捕食者:オタリア

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都市伝説と化しそうな誤解