また別のシーンでは先輩が寮に帰ってきた時に部屋で待機していなかった江川の同級生が、顔の形が変わるまで殴られたというエピソードも出てくる。今から40年以上前の話であり、現在の野球部が同じことをやっているとは考えづらいが、強烈な大学野球の上下関係を示すエピソードとして紹介した。しかし先述した千丸容疑者の同級生が綴ったメッセージを見ると、少なからずこのような体質が残っていることは否定できないだろう。

 ベースボールマガジン社が発行している『大学野球』(週刊ベースボール増刊)には、東京六大学と東都大学一部リーグの部員が全員掲載されている。この12校を対象に2017年に入部した選手を1年秋時点と3年秋時点で比べてみたところ(1年春の時点では一部リーグの一般入部の選手が反映されておらず、また4年になると就職活動を理由に部を離れる選手も少なくないため。また、日本大については2017年秋は一部リーグも、2019年秋は二部リーグ所属だったため、東都大学野球連盟のホームページを参照した)361人が339人になっていた。この結果から見ると22人の選手が最終学年を前に野球部を去っていることになる。想像していたよりも少ない印象だが、全員が残っているという野球部はわずか3校しかなかった。

 その一方で古い体質を改善しようという動きもある。首都大学野球連盟に所属している日本体育大は2015年11月から『体育会イノベーション』という取り組みを実施。これまで下級生が行っていた雑用を上級生が請け負い、1年生には大学生活に適応するように配慮しているという。これは大学ラグビーで圧倒的な結果を残した帝京大学の取り組みを参考にしたものとのことだが、その成果が出たのか2017年の明治神宮大会では優勝を果たしている。

 また大学の野球部に合わなくて他の大学に移って才能が花開くケースもある。吉川尚輝(巨人)は亜細亜大に進学予定だったものの、練習が合わずに入部を取りやめて地元の中京学院大に進学。その後メキメキと力をつけて、ドラフト1位でプロ入りしている。また今年伊藤大海(苫小牧駒沢大)は駒沢大を、河村説人(星槎道都大)は亜細亜大を退学して転校し、1年間はリーグ戦に出場することができなかったが、1年遅れながら今年はドラフト候補に名を連ねている。

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