このビジネスが誕生したのはおよそ30年前、1980年代半ばのこと。そもそも、純血種をペットショップで買うという消費行動が平成に入ってから一般的になったきっかけが、競り市の登場だと言える。

 競り市の登場前、ペットショップは、繁殖業者から直接購入する、ペットショップ同士で必要な種類を交換する、海外から輸入する――などのほかに、子犬・子を仕入れるルートを持っていなかった。このため、多店舗展開や全国展開は実質的に不可能で、消費者のニーズにあわせて多様な犬種・猫種を品ぞろえすることも難しかった。消費者にとってペットショップが、いまほど身近な存在ではなかったのは、こうした事情による。

 ところが80年代半ば、繁殖業者が子犬・子猫を出荷し、ペットショップがそれを仕入れる場、いまのスタイルの競り市ができはじめた。一般社団法人「金融財政事情研究会」が業界動向をまとめた『業種別審査事典(第11次)』は、「犬・猫はブリーダーと呼ばれる繁殖業者(もしくは個人の繁殖家)、輸入業者から仕入れていたが、セリ市場の登場により大量供給が実現した」と記す。

 競り市が全国にできたことで、繁殖業者による大量生産とペットショップによる大量販売というビジネスモデルが成立した。このことは、様々な犬種のブームに、ペットショップが対応できるようになったことも意味する。また、異業種からの参入が容易になったのも重要な変化と言えるだろう。もし競り市がなければ、異業種からの新規参入組は仕入れ先を独自に開拓しなければならず、それは大きな参入障壁になったはずだ。

 競り市は、日本における犬の生体販売ビジネスが、巨大な流通・小売業に成長するために必要なエンジンだった、というわけだ。競り市があってこそ、現在のように、数十店から100店前後を展開する大規模チェーンが10社以上も存在できる。

 日本最大規模の競り市を運営しているのが、大物俳優らが出演するCMで有名なハズキカンパニーなどを連結子会社とするプリヴェ企業再生グループ傘下の「プリペット」だ。長く犬ビジネスを手掛けてきたという同社幹部は、以前の取材に競り市の存在意義をこう説明していた。

「子犬の適切な健康管理を行い、価格決定の透明性を確保するために、ペットオークションという機能が必要になった」

※『「奴隷」になった犬、そして猫』の第2章から抜粋・再構成

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